1.物質文化に関する比較研究 今年度は、メソアメリカ南東部からメキシコ湾岸やメキシコ中央部にかけて分布する太鼓腹の石彫資料を研究した。エルサルバドル西部ではパス川より西のグァテマラ地域とはやや異なっていた。メソアメリカ南東部太平洋側では、メキシコ湾岸の石彫をそのまま取り入れるのではなく、概念をそれぞれの都市若しくは集落で取り入れるときに、その地における最も相応しい方法で受け入れたと考えられる。つまり、メソアメリカ南東部太平洋側では、外来の石彫の概念を取り入れるときに、その地に適応させた形で受け入れたと考えられる。動きやすい遺物を研究するために、蛍光X線分析に関する基本データを得るために、エルサルバドル遺産局の許可を得て、チャルチュアパ遺跡から出土した緑色の石(ヒスイ、トルコ石、蛇紋岩他)から作られた遺物を、蛍光X線分析器を使って測定した。測定値の分析から、従来考えられていたヒスイのみならず、ヒスイ以外の緑色をした石も使われたことが分かった。 2.DNA 分析によるヒトの集団遺伝学的研究 今年度、17座位のY染色体上のSTR(Y-STR)も調べた。その結果、首都サンサルバドルの一人の男性が、メキシコ南部の先住民とスペイン人の混血であるいわゆるメスティソと同じタイプを有していた。このため、先住民ピピルの中で、元々住んでいたナウイサルコから、内戦時に首都など他の都市に逃れた人がいたことが考えられた。また、先住民ピピルは、メキシコ南部の同じナワ語系先住民と遺伝的に近縁であることが示唆される。このため、地理的に両者の間に分布するグァテマラ共和国の先住民との関係を知る必要性がある。今年度も、グァテマラ共和国の法医学研究所と連絡をDNA分析結果に関する情報提供についての意見交換を行った。また、DNA分析用試料の提供を打診するとともに、同研究所との今後の共同研究の可能性を検討した。
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