本研究では、津波堆積物の地層対比手法に関する指標のうち、津波堆積物の層位、地質学的特徴、高精度な年代、古環境情報について検討してきた。用いた試料は、岩手県山田町、野田村、青森県むつ市の湿地堆積物中に挟在する津波堆積物である。特に地質学的特徴に関しては、全ての試料に対し分析を実施し、津波堆積物に含まれる礫の円磨度や砂の粒度を指標とし検討した。その結果、津波堆積物に含まれる粒子は、海岸に分布する堆積物の特徴を有する一方で、津波が浸水する内陸にある堆積物の特徴も含んでいることが明らかになった。また適切な特徴を用いて、統計的に処理することでその混合比を求めることも可能であり、津波堆積物の認定だけでなく、側方対比をする上でも指標となることがわかった。 他の指標に関しては、山田町小谷鳥の高密度掘削試料に対して検討を行なった。地球化学的指標は、津波堆積物よりもその間の通常堆積物の側方対比に有効であるが、顕著な侵食や同時異相がある場合は誤った対比につながる。津波堆積物の層位については、同様の堆積が進行する場所については、その深度や層序は有用である一方で、侵食・堆積が大きな場所や津波堆積物が堆積後に除去される場合には、誤った対比につながる。特に後者の場合は、その他の指標(津波堆積物そのものの特徴や年代情報)を使用しない限り認識できない可能性が高く、注意を要する。高精度な年代に関しては、上記の指標に基づき対比を行なった後に実施することで、効率的に側方対比を行うことが可能になる。 本研究では、このように一見自明に見える事柄を実際の試料を用いて検討した。その結果、津波堆積物そのものは多くの情報を保持しており、適切に抽出することで、新たな津波堆積物研究につながる可能性がある。また、地層の側方対比には、主観的なものが内在しており、それらと客観的指標を合わせることでより確実度や信頼度の高い対比につながる。
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