研究課題/領域番号 |
17K18536
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研究機関 | 公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センター |
研究代表者 |
高垣 政雄 公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センター, その他部局等, 研究員(移行) (70252533)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 文化人類学 / エスノグラフィー / 福島原発事故 / 低レベル放射能環境 / 帰村 / コミュニティー / 福島県飯舘村 / 放射線管理 |
研究実績の概要 |
2017年度は原子力科学を専門とする科学者や福島県飯舘村の村民や行政職の方々に福島原発と科学の責任についてインタヴューを行い貴重な意見を聴取した。とりわけ放射線量の規制に関するエスノグラフィー(規制の人類誌)の必要性が示唆された。そこで、2017年度は福島飯舘村での環境放射能の数値と村民の感情について長年の調査から分析して報告書にまとめた。 放射線環境を規制する立場にある科学者と規制される村民の行動との間には乖離があり、村民らは低レベル放射線環境を知りつつも生きがいを優先して帰村していく姿が村民の語りから浮き彫りにされた。科学者はリテラシーを目的に帰村民に低レベル放射能のリスクについて説明し放射線防護をすることはもはや有効とは思えない。低レベル放射能によって今尚コミュニティーが損傷した村民が集団活動するのはますます困難となっている。一方、低レベル放射線環境に帰村を促す生政治は村民の管理と囲い込みを通してさらなるコミュニティーの分断をきたしているかのように思われる。 平成29年6月飯舘村は避難解除されたが集団帰村ではなく村民の自由意志に任されたことでかえってコミュニティーが一層分断され、その後の賠償問題などでの集団活動をさらに困難にした。 ハンナ・アーレントが指摘したように集団が一枚岩とならない限り集団活動は困難となることを改めて示すものである。 科学者は放射線防護を行う上で、単に数値で規制せざるを得ないのであるが、実態は管理するー管理される間(コンタクゾーン)に潜んでいることを念頭に置いた上で管理される側と対峙することが求められることが明らかになった。 2017年度研究内容は(1)京都大学複合原子力科学研究所2017年度共同利用研究報告(KURRI-TR2017)および(2)放射線 生体影響に関する国際会議市民フォーラム 2018年3月18日、大阪において発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年6月飯舘村は避難解除された。これまでフィールドワークを行ってきた飯舘村大野台仮設は1年の猶予ののちに閉鎖される。本研究では避難解除およびその後の実態を避難村民を追跡調査することで帰村の民族誌として報告することで、原発事故の人類誌、原発災害時の避難の実態と災害時の情報を人類誌とまとめることで、原子炉が人類にもたらす功罪と近未来にエネルギーとしての原子炉と人類がどのように扱っていくべきなのかを考究する。 研究所年度(2017年度)は主に帰村民の追跡調査を行った。帰村した村民、帰村しなかった村民、その次世代の村民、さらに飯舘村行政官吏の方々と定期的に集会しインタヴューを行った。集会は避難解除後再開された飯舘村宿泊体験館きこりに合宿して長時間にわたって討論する形で行った。これまでに5回(2017年は8、10、12月の三回、2018年は1、3月 合計5回)合宿して村民集会を行った。避難解除後の帰村民、帰村しない村民、その次世代、行政などの人に集まってもらって自由に議論した。議論は毎回深夜遅くまで続いた。あらかじめテーマを出すことも出さないこともあり自由に討論を行った。そこで得られたデータの意味は分析中であるが被災者の集団としてのリアルを表出しており帰村民集団として意向をまとめるには効果的な研究方法であると思われる。 一方、原子力研究に従事する研究者調査は京都大学複合原子力科学研究所共同利用として研究を遂行した。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は引き続き合宿インタヴューなどで帰村民へのインタヴューを行い、帰村後のデータを収集する。2018年は研究代表者の本研究課題での博士論文執筆、2019年度中の学位取得と博士論文の出版を目指す。 2018年度京都大学複合原子力科学研究所共同利用研究(課題:原子炉の人類誌)は採択され本研究のフィールド研究の場をすでに確保されている。 2018年4月より本研究を積極的進めるため研究代表者は所属先の(公財)ルイ・パストゥール医学研究センターにおいて文理融合型先端医科学研究室室長の職位を得た。
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次年度使用額が生じた理由 |
フィールドワークでは村民の協力、飯舘村での宿泊所の使用により経費が削減できた。また2017年在職した大学での個人研究費の使用があった。 2018~2019年データ分析、論便執筆、本研究課題での博論執筆および出版に向けて研究費を可能な限りセーブした。 以上の理由により次年度使用額が生じた。
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