研究課題/領域番号 |
17K18538
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
玉井 克哉 信州大学, 経法学部, 教授(特定雇用) (20163660)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 営業秘密 / 特許 / 外国出願 / 産学連携 / 技術移転 / 防衛秘密 / デュアルユース / 技術安全保障 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、米国を震源地とする知的財産法の大きな変化(「営業秘密革命」)が大学など公的研究機関に及ぶのか否か、及ぶとすれば大学発祥以来の伝統である研究成果公開原則に影響するのか、さらに影響するとして大学が伝統をどのように保持できるかを探索することである。 平成30年度は、米中摩擦の一環として米国大学にも対外的な秘密保持が強く要請されるようになった年であり、わが国にも同様の動きが生ずることが予測されたことから、大学外の社会における変化について情報収集を行う必要ができた。そこで、研究代表者が座長とする「技術安全保障研究会」を組織し、西正典元防衛事務次官、渡辺秀明元防衛装備庁長官、森口泰孝元文部科学事務次官、坂本吉弘元通商産業審議官、荒井寿光元通商産業審議官、西山淳一未来工学研究所参与(元三菱重工)、長瀬正人グローバルインサイト社長(元三菱商事)、國分俊史多摩大学教授等と、月一回程度の定期的なディスカッションの機会を設けて、内外のゲストを迎え、状況把握に努めることとした。その成果として平成30年10月に提言を公表した上で、新たに警察庁出身者を加え、活発な活動を続けている。 こうした刺戟を受けて、研究成果情報の秘匿と知的財産権という研究テーマが浮上したので、それを別表のような3本の論文をまとめた。いずれも、最も先鋭な取り組みをしている米国法についての比較研究である。一つは特許制度における「外国出願許可制度」であり、いま一つは「秘密特許制度」であり、いずれも、技術情報の公開という理念を有する特許制度の原則に反し、対象を秘密に留める仕組みである。さらに、司法裁判の原則をゆがめても国家秘密を秘匿すべきだとする一連の判例がある。これらによって、本研究開始当初に想定していた「営業秘密革命」が、国家秘密と連動した、想定とは別の形で進んでいることが明らかとなりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のテーマが「営業秘密」であることから調査が必然的に機微に触れることとなるため、調査対象へのアプローチがそもそも容易でないことが多いが、法制度の面での動きについては、わが国でも米国でも、公開情報に基づいて研究を進めることができている。また、官庁や企業のOBとの間で信頼関係を構築することに成功し、定期的な研究会活動などを通じて、本研究の背景となる知見を深めているほか、前記の提言に触発されて、平成30年12月には、自由民主党国防部会における談話の機会に恵まれた。これらにより、機微に触れる情報にもアプローチが可能となりつつある。
また、営業秘密法制と特許法制の接点となる秘密特許制度についても研究を進め、「米国における外国出願許可制度について」と題する論文を『知財管理』誌に、続けて「米国の秘密特許制度について」との論文を『AIPPI』誌に公表した。さらに「防衛秘密と司法判断」と題する論文が、『情報法制研究』誌に掲載される運びである(査読済み、校正済み)。
ただし、欧州や米国におけるバイオ系企業とのインタヴュー調査においては、バイオ系・医薬系の企業では依然として特許制度による権利保護が最も重要であり、「営業秘密革命」の進行は予想より緩やかであるか、あるいはそもそも革命が起こらないとの考え方が示された。さらに、電気系・機械系メーカーとのインタヴュー調査においては、営業秘密への重点変化はたしかに起こってはいるものの、特許制度への代替としての「革命」というよりは、特許制度の対象の縮小と代替的制度の顕在化という見方の方が適切ではないか、との考え方が示された。前記のような動きに照らすと、「営業秘密革命」は、技術安全保障の見地から秘匿すべき情報を国家が管理するという、本研究プログラムの当初見通しとは異なる方向で実現するのではないかとの見通しを得つつある。
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今後の研究の推進方策 |
今後も当初予定の見通しを維持しつつ研究を進めていくが、前記のように、国家秘密と連動した形での「営業秘密革命」が進んでいくとすると、サイバーセキュリティやセキュリティ・クリアランスなど、従前知的財産法とは無関係だと想定されていた法制度についても、視野に収めて検討を続ける必要がある。また、論文というクラシカルな形で研究成果をまとめるのが重要であるとしても、それと並行して、提言や講演といった形で現時の考えを発信し、触発された当局者や各界関係者に取材を行うというのが、情報収集のあり方として有益である。そうした場で収集される情報には、公表を予定せず、研究成果として公開するにはなじまないものが多いが、そうした情報を脳裡に置いて研究を続けるのとそうでないのとでは、研究方針の策定という基本についても、また論文執筆における問題意識についても、大きな差が生じると痛感している。
今後は、従前の研究方針に加え、特定秘密保護法制や外交秘密法制に関わる当局(国家安全保障局、防衛省、外務省)への取材も視野に入れつつ、これまでの方針を継続して研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
人件費を作業の効率化によって節約した。また、謝金の支払をする予定であった相手から、辞退があった。 次年度は、研究の取りまとめに向け、情報処理機材の購入等に当てる計画である。
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