本研究の目的は、米国を震源地とする知的財産法の大きな変化(「営業秘密革命」)が大学など公的研究機関に及ぶのか否か、及ぶとすれば大学発祥以来の伝統である研究成果公開原則に影響するのか、さらに影響するとして大学が伝統をどのように保持できるかを探索することである。 平成31年度/令和元年度は、前年度に引き続き、研究代表者が座長を務める「技術安全保障研究会」に新たに警察庁出身者を加え、西正典元防衛事務次官、渡辺秀明元防衛装備庁長官、森口泰孝元文部科学事務次官、坂本吉弘元通商産業審議官、荒井寿光元通商産業審議官、西山淳一未来工学研究所参与(元三菱重工)、長瀬正人グローバルインサイト社長(元三菱商事)、國分俊史多摩大学教授等と、月一回程度の定期的なディスカッションの機会を設けて、内外のゲストを迎え、状況把握に努めた。その成果として、令和2年3月に提言「経済安全保障法の制定を」を公表した。その要約版を2020年5月18日付けの日本経済新聞「経済教室」を執筆し、社会実装を図りつつある。 こうした刺戟を受けて、別表のような2本の論文を発表した。いずれも、最も先鋭な取り組みをしている米国法についての比較研究である。一つは「取消訴訟の負担過重」に関するものであり、いま一つは「商品識別番号の改変と商標権侵害」に関するものである。さらに、司法裁判の原則をゆがめても国家秘密を秘匿すべきだとする一連の判例がある。これらによって、本研究開始当初に予期していた「営業秘密革命」が、国家秘密と連動した、想定とは別の形で進んでいることが明らかとなりつつある。大学における研究成果公開原則については、現在進行中の「コロナ危機」との関連で劇的に進行している。
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