研究課題/領域番号 |
17K18544
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
鈴木 賢 明治大学, 法学部, 専任教授 (80226505)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 同性婚 / LGBT / 同志 / 国民投票 / 人権 / 大法官 / 婚姻平等 / 憲法解釈 |
研究実績の概要 |
台湾ににおいて同性婚法が成立する直前にあったことから、研究の資源を台湾における同性婚法の成立に絞ることとした。 台湾は2019年5月17日に「司法院釈字第748号解釈施行法」を採択し、同年5月24日から施行することとなった。これにより台湾では、2017年5月24日の司法院大法官748号解釈および本法にもとづき、同性の両名にも結婚登録をなしうるとされた。いわゆる同性婚の法制化がここに実現を見た。本研究では政治家、社会運動、学界の3つの側面から、アジアで初めて婚姻における性指向による差別を解消し、婚姻平等化を図るにいたる過程を分析した。 政治家では立法委員(国会議員)の尤美女氏が早くからもっとも熱心に同性婚実現のための民法改正に取り組み、3度にわたり改正法案を提出し、成立に向けて努力を重ねたが、多数の支持を得られずに二読会以上の段階へは進めることができずにいた。国民党は司法院大法官748号解釈以後も基本的には反対を続け、国民党所属の頼士葆議員は婚姻とは異なる枠組による同性カップルの法制化を目指す法案を提出するなど、最後まで抵抗を続けた。民進党内部でも消極的な層があり、李岱華らは同性結合法案を提出し、同性婚を阻もうとした。こうして民進党による政権獲得後も審議はなかなか進まなかった。 台湾では社会運動が同性婚実現のもっとも主要な推進者であり、女性団体・新知婦女基金会から発足した台湾伴侶権益推動聯盟、電話ホットライン、HIVの運動などから組織された婚姻平権大平台、同志家庭権益促進会などの団体が世論を先導した。2018年にはキリスト教会の支援を受けたアンチ派が大規模な活動を展開し、2018年11月の地方選挙に合わせて同性婚実現の法律方式(民法の改正か、特別法の制定か)をめぐり国民投票に持ち込み、特別法派が多数を得た。 学界の研究成果は本格的なものは現れておらず、限定されたものに止まる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
対象の変容に合わせて法制定まえの変容状況をフォローすることに努めた。推進派の政治家、NGO、学者、メディアでの議論状況の把握に努め、1986年から同性婚を求める運動を始めた祁家威氏へのインタビュー、政治家(尤美女立法委員)と、NGO関係者(沈秀華氏、新知婦女基金会の元理事長)を招いて、国際シンポジウムを開催するなど、最終的な取りまとめに向けた準備を行った。 同性婚反対運動を大規模に展開するグループの主張、論理の解読を行った。伝統家族崩壊論、出生率低下による少子化の深刻化、HIVの蔓延などはがあるが、いずれも説得力のある論理といえるものは登場していない。台湾ではキリスト教の信者のなかには「子どもを産まない」同性カップルからは婚姻の自由を奪うことが肯定さえるとの主張がなされ、一定の動員力をもっていることに注目した。 2019年に出された3つの法案を翻訳し、HPに日本語版を公表した。 以上のことにより、最終的な取りまとめに向けて準備を整えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
台湾については今年度中に「台湾における婚姻平等への道」(仮称)と題して、同性婚法制化までの台湾が辿った道を整理し、日本法への示唆を一書にまとめた成果を執筆し、広く世間に台湾同性婚法の実現までの軌跡を伝えたい。欧米や南米、太平洋洲を超えて、アジアではじめての同性婚を実現できるまでの道のりを振り返り、なぜ台湾が日本を超えたスピードで実現にこぎ着けたのか、その背景と動因を分析する。 他方、中国ではとても同性婚を法制化する兆しはなく、権威主義的体制を強化し、当局はいっそうLGBT、性の多様化に対する警戒を強めている。多様な性の承認が社会全体の多様化を促進しかねず、ひいては一党独裁体制を揺るがしかねないことを危惧している。したがって、婚姻における差別を撤廃させるための運動を組織するのは、きわめて困難な状況ににあり、法制化を展望できる状況にはない。外国とのつながりが多い当事者NGOへの締め付けが強まり、運動を組織するのも困難な状況で混迷を深めている。そうした困難な状況でも活動を続ける当事者団体へのインタビューなどを行い、将来の変容の可能性に迫りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた中国法に関する図書資料の出版が遅れたため購入が間に合わなかった。次年度に出版され次第、購入の手続をとることとする。
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