研究課題/領域番号 |
17K18544
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
鈴木 賢 明治大学, 法学部, 専任教授 (80226505)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 台湾法 / LGBT / 同性婚 / 婚姻平等 / 大法官 / 違憲 / マイノリティ / 同志 |
研究実績の概要 |
1986年にはじまる台湾における同性婚間に婚姻を成立させるための運動、法の成立、施行に至る歴史的プロセスを、以下のように時期区分できる。(1)1986年~2006年 アイデンティテイ運動段階。(2)2006年~2008年 目標模索段階。(3)2009年~2019年 婚姻平等化推進段階。(1)の段階ではLGBTが全体として不可視化されながら、先駆者として祁家威(ゲイ)が単独で同性婚を求める行動を始めていたが、当事者からも社会的にも大きな影響をもつことはなかった。大学での「同志」サークルの勃興、2003年から台北においてパレードが始まるなど、当事者運動が育っていった。(2)の段階には、立法院に同性婚を成立させるための民法改正案が提案され、女性団体では同性婚についての関心が高まるが、なお、活動の目標が設定されないままであった。(3)に入り、伴侶権益推動連盟が多元的家族法案のひとつとして婚姻平等法案をまとめ、それが立法院に提案されると、当事者の間ではこれを運動の目標に据えるようになり、政治的なagendaとしても明確になっていった。 立法院の内外、社会的には賛成派を反対派による激しい議論を打ち破ったのは、政治情勢の急変であった。婚姻平等を選挙期間中に支持することを明言した蔡英文氏が総統に当選し、立法院でも蔡氏の民進党が過半数を占めるに至った(2016年)。蔡総統は大法官の指名を通じて大法官会議の勢力を変更し、2017年5月には同性間に婚姻を成立させない民法を違憲との判断を誘発した。2年以内の法改正を立法機関に命じ、2019年5月17日、立法院が司法院第748号解釈施行法を成立させ、台湾で同性間でも婚姻が受け付けられるようになった。 法施行後、1年を経過し、約4000組の同性婚が成立し、LGBTに対する社会通念にも大きな変容を生じるに至っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本来、本研究は2020年3月をもって終了する予定であった。その予定で研究を進め、順調に進行していた。しかし、以下、2つの事情により、1年の延長を申し出ることとなった。 第1に、同性婚を成立させる法律が2019年5月24日から施行されたが、施行後の同性間の婚姻受理状況、同性婚が法制化されることがいかなるインパクトを社会や世論、規範意識に与えているかにつき、少なくとも施行後1年間の観察を研究に加えることで、日本の実践により意味のある示唆を引き出すことが可能と考えた。統計数字、世論調査の結果などを整理し、施行後1年を振り返る部分を追加したい。 第2に、新型コロナウィルスの蔓延により台湾への渡航、台湾からの招聘に困難が生じたことである。少なくとも1年延長することで、後半には渡航が可能となり。補充的な調査を行うことができるであろうと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
1 司法院釈字第748号解釈施行法(同性婚法)の施行後、1年あまりの時点での情報を収集、咀嚼、吟味、整理することで、『台湾の同性婚法』(日本評論社)(仮題)としてこれまでの成果を1書にまとめて、出版する。脱稿は7月、出版は11月を予定する。 2 台湾で残された問題として、台湾人と同性婚が承認されていない国の外国人との結婚問題がある。台湾の国際私法の規定により、こうした国の外国人とは未だに婚姻がなしえない。すでにシンガポール人とのカップルが行政訴訟を提起しているほか、日本人のカップルにも婚姻を待っている人がいる。延長された期間にこの論点について進む運動の状況についてフォローし、論考として発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年5月24日に施行になった台湾の同性婚法(司法院釈字第748号解釈施行法)に関して、施行後、1年間の施行状況、法がもたらした社会的インパクトなどに関する情報の分析を研究取りまとめに含めることが、日本の法状況に対する貢献になると判断したため。 さらに、新型コロナウィルスの蔓延により困難となった招聘によるとりまとめの講演会を次年度に繰り下げて実施することとしたため。
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