研究課題/領域番号 |
17K18556
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐口 和郎 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (10170656)
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研究分担者 |
橋本 由紀 九州大学, 経済学研究院, 准教授 (30707675)
金井 郁 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (70511442)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | ライドシェア / independent contractor / independent worker / シェアリングエコノミー / 国家戦略特区 / 雇用関係 / 規制 |
研究実績の概要 |
米国の研究協力者とともに、タクシー及びライドシェアに関する両国の規制の差異とその要因の分析を進めた。米国については、K.Wyman(NYU)の研究、日本については新経済連盟へのインタビュウ内容等がその中心的題材となった。この中で、タクシー運転手の法的地位の差異、タクシー会社の組織の差異、公共交通機関としてのタクシーの位置づけ(政策上)の有無等が分析を深めるべき論点として析出された。 また、ライドシェアに対抗する目的で日本のタクシー会社が改革プランを進めていることをふまえ、その実現可能性について分析を進めた。具体的には、北九州市・飯塚市・佐賀市・旭川市のタクシー会社、タクシー運転手の労働組合のナショナルセンターである全自交に対してインタビュウを行った。この結果、前述の改革プランは、運転手の高齢化・不足や利用者の低減に直面する地域では有効ではなく、むしろその推進の結果、首都圏・地方中核都市を中心とした大手と地方都市・過疎地の中小との間の様々な意味での「格差」が増幅される可能性が存在ことが見出された。また、運転手不足が深刻な地域では、女性・高齢者をパートや請負(委託)の運転手として活用すること、その中で配車アプリを活用することなどが検討されている事実も発見された。 さらに、日本において実際にUberの配車アプリを活用している事例として、京丹後市丹後町、北海道中頓別町の調査を行った。その結果、こうした事業(NPO等)での働き方は、拘束時間の短いオンデマンドによる働き方であり金銭目的を主眼とする労働ではないということ、地域の共同体を支えというミッションを有する労働だということ、観光客の利便性の向上を図るという機能も担っていることなどが明らかとなった。そして、こぅした働き方は、先述の運転手不足が深刻な地域での取り組みと重なる分があることも見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
日米でのライドシェアへの規制の比較とその要因の分析については、計画していた以上に議論と分析が進み、現在英文での共著ペーパーを作成中である。また、日本においてUberへの対抗措置としてタクシー業界が進めている措置が、首都圏や地方中核都市の大規模タクシー会社と地方都市や過疎地でのタクシー会社での働き方との差異を拡大する方向で作用していることが調査によって明らかとなり、この点も予期していた以上の成果であった。さらに、日本でライドシェアを推進する主体である新経済連盟のインタビュウを実施することで国土交通省の政策との関係について分析する素材を得ることができた。これらについては、本研究が順調に進捗している面として評価できる。 その一方で、アメリカでのライドシェアの実態の分析については、予定していたアメリカ側の研究協力者の事情もあり、2018年3月のサンノゼにおける若干名のUber運転手のインタビュウの実施に留まっている。したがって、今のところ既存の調査・研究に依存せざるをえない状況であり、このことは当初の計画から見ると一定の遅れと評価せざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、既存のタクシーでの労働条件や雇用諸制度、働き方について明らかにすることである。特に首都圏の運転手と過疎地・地方都市の運転手について企業規模も考慮しつつ、その現状を解明していく。第二に、先進的なタクシー会社での改革の進行とそれ以外の運転手不足等の問題を抱える地方都市などのタクシー会社での模索の実態を解明する。そして、それらによる運転手の働き方の変化を中心にこれらを比較検討していく。特に運転手の生活の維持、自由度のレベル、仕事の効率性、公正さの実現等を焦点とすることでこうした諸事業の持続可能性を探ることにする。そして、第一第二の課題に関連して、タクシー運転手を対象とした大規模なアンケート調査と計量分析を実施する。また、タクシー会社へのアンケート調査も実施する。 第三に、京丹後市丹後町でのUberの配車アプリの活用に関連して、これを担う運転手の働き方や生活についてより詳しい分析を行う。第四に、アメリカのライドシェアでの働き方の実態について、生活維持機能、自由度レベル、仕事の効率性、公正さの実現等の観点に基づいて分析する。第五に、サービス産業での働き方とシェアリングエコノミーとの関係について検討する。具体的には、固定的・集合的職場を伴わずに顧客と労働者が直接に接し、サービス内容と日常の生活での営みとの近似性が一定程度認められる職種が、プラットフォームビジネスとしてどのような働き方を生み出しつつあるのかについて検討する。これをもとに、日本のライドシェアをめぐる働き方の問題を位置づけることのできる座標軸をえることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
アメリカでのUber運転手への調査が限定的なものに留まり、それに必要な出張旅費等が支出されなかったことが理由である。 次年度については、タクシー労働者へのアンケート調査を、企業側への調査も含めて拡大して行うことを予定している。したがって、「次年度使用額」は、アンケート調査とその分析の拡張に充当する計画である。
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