本研究では、特に出産後の女性が多くさらされるオキシトシンが競争選好・利他性に与える影響について医学分野との共同研究を通じて明らかにする。具体的には、ランダム化二重盲検によるオキシトシン点鼻薬の単回投与によって、経済実験における被験者の競争的環境の選択行動に変化が出るかどうかを検証した。オキシトシンは、中枢神経系における愛着形成や利他的行動と相関を持つことが知られている。したがって、競争相手に対する信頼、愛着、利他性などのオキシトシンと関わりの深い感情が競争参加への選好に影響を与えている可能性がある。 競争選好を計測する経済実験は、Niederle and Vesterlund(2007) によって開発されたこの分野の標準的な手法を用いた。オキシトシンとプラセボをそれぞれ92人に投与し、被験者間で比較するデザインとした。経済実験は、オキシトシン投与の先行研究と同様、健常な成年男子のみを対象として行った。 オキシトシンの増加により共感性が高くシステム思考が低い人は競争を好まなくなることが明らかとなった。また、オキシトシン投与により信頼行動が増加することが本研究においても確認できた。特に、自閉症傾向が見られない人について、オキシトシン投与によって信頼行動が増加することを明らかにした。以上の男性を実験参加者とした実験は平成29年度に終了し、平成30年度から令和元年度はこの結果を論文にする作業と女性実験参加者を対象とした実験を行うために、倫理審査の準備作業と倫理審査に費やした。倫理審査が令和2年1月に承認され、実験の準備を整えたが、新型コロナウイルス感染症の流行のため、実験参加者の募集および学内施設が利用不可能になり、実験の実施ができなかった。
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