明治期の綿紡績業での労働者募集をめぐる視覚メディアの利用の実態を明らかにするため,平成30年度も引き続き史料収集・調査を行った。具体的には,視覚メディアの利用を先駆的に行った鐘淵紡績の労働者募集案内や会社案内などの史料収集を継続した他,同社の労働者募集や労働者優遇策を取り上げた新聞・雑誌の記事についての調査も行った。これらの史料収集・調査によって,鐘淵紡績では,募集人が労働者を欺き農村社会で警戒が増す状況と,紡績企業間での労働者募集が激化する状況の下,自社の労働環境を正しく農村社会や労働者に伝えて労働者募集を有利に進めるため,写真という当時の最先端の視覚メディアを利用したことが明らかとなった。加えて,鐘淵紡績では,そのような活動を通じて,外部の募集人に依存しない労働者募集の体制も整っていったことも明らかとなった。また,労働者から郷里に送られた紡績企業発行の絵葉書についても,追加的な史料の収集を行い,労働者と農村社会をつなぐ重要な視覚メディアとなっていたことが明らかとなった。 この成果を踏まえて,日本経営学会関西部会12月例会(平成30年12月15日,於:鳥取環境大学)にて「明治期紡績業の労働者募集と視覚メディア 鐘淵紡績の写真利用に注目して」の研究報告を行った。同報告では,明治期の綿紡績業での労働者募集についての先行研究レビューと明治期の綿紡績業の画像史料の分析を行った。その後,昨年度の学会報告と今年度の学会報告の成果を反映させて学術論文を執筆し,現在投稿中である。
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