研究課題/領域番号 |
17K18570
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
齊藤 健太郎 京都産業大学, 経済学部, 教授 (10387988)
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研究分担者 |
周 艶 京都産業大学, 経済学部, 特約講師 (00755796)
小田 秀典 京都産業大学, 経済学部, 教授 (40224240)
山内 太 京都産業大学, 経済学部, 教授 (70271856)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 実験 / 歴史学 / 実験経済学 / 歴史学理論 / 日本 / イギリス |
研究実績の概要 |
29年度は、歴史学実験を試行するための理論的整理・準備を進める一方、経済学実験から歴史学実験へ接近するための試験的実験を行う計画であった。一般の経済学実験の中にどのような歴史的含意を見出すことができるかを検討するためである。 まず、試験的実験として、小田秀典および周艶は、再分配実験を日本および中国で実施した。実験では,まず互いに匿名の2人の被験者の初期所得を決定し,次に両人にそれをどう再分配したいかを尋ね,いずれかの提案を無作為で採用し,それに従って両人に謝金を支払うという手続きでおこなった。初期分配としては,(a) 被験者の能力あるいは努力に応じる分配,(b) 被験者の危険受容度と偶然による分配,(c) まったく偶然による分配の3通りがためされた。実験結果は,1. 初期分配がもっとも尊重されたのは(a)のときであったのは予想通りであったが,2. 日本の被験者の方が利己的な再分配提案をする傾向が高かったことと,3. 平等分配の提案の割合は,(c)においても,初期分配に依存したことが,新たな発見であった。特に3は既得権や既存秩序の尊重に含意があり,これは、組織や集落が持つ秩序の形成やそれへの依存という歴史実験が検証しようとしている対象への実験の適用を示唆するものである。これは30年度に、日本およびイギリスに関する歴史実験を計画への寄与として大きい。 また、歴史学実験を試行するための理論的整理・準備として、齊藤は実験を歴史研究に適用するための理論的な前提として、歴史研究の方法論の整理を行った。また、30年度の実験計画のために、イギリスの労働争議資料について文献調査を行った。山内は近世日本の一揆についての実験計画を設計するための資料調査を行った。これらは、すべて国内の大学図書館・資料館などで行った。また、グループ内で定期的に研究会を開き、上記の内容について検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度は、上記のように計画していた国内と国外における実験を行い、その結果を歴史研究に適用できるかを検討する研究会を持ち、また、30年度における実験設計のための事前調査の一部をおこなったという点で、研究は「順調に」進展している。これが、「おおむね」である一つの理由は、事前資料調査として年度内の海外調査を予定していたことが実現できなかった点などである。また一方で、研究計画では「進捗に応じて、実験経済学・経済史の研究者と本研究について論じるため、内外の学会に参加・報告する」としていたが、内外の学会で報告するほどに研究が熟したとは言い難い。このような諸点から、進捗として、「区分」から選択したような状況になった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、歴史学実験を設計して実施するための、実験計画をおこなう。主目的である歴史学実験の実施は、春学期に予備実験,秋学期に本実験の予定である。予備実験では,謝金構造で他の時代の人々の選好や行動を現代の実験参加者に付与できるかに重点を置いて、利得構造のモデルを設計する。これは研究計画における「実験のモデル化」の後半である。モデル化は、過去の事象をそのまま経済実験室内に再現するというよりも,それを特徴づけるものを純粋な形で表現することを目指すものであり、実験哲学の成果を取りこみつつゲーム理論的理解を目指す。人がそのように行動するかだけでなく,その結果として体系全体がどうなるか,さらには体系変化の意味をどう理解するかが実験結果の解釈の焦点となる。これらの結果を踏まえて本実験では,19・20 世紀のイギリスの労使関係および徳川時代の農村一揆の発生から、それぞれの特徴を抽出して,歴史研究と対照可能な実験を実施する。本実験の具体的な設計は,既存の労働市場の理論や実験との関連を無視することなく実験を設計する一方で,利害関係のない公平な第三者の意見に対する働きかけを含む哲学実験の特徴をもつものを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度は、実験歴史学の可能性を検討するために経済学実験の国内・国外で行う計画は実行したが、29年度は国内での資料調査に十分な時間をかけたため、海外での資料調査のために予定していた予算を使用しなかった。また、本研究グループの外部の研究者たちとの議論、学会参加などを予定していたが、これらに対しては十分に期が熟したとは言えず、学会参加などは見送った。したがって、次年度使用額が生じた。これらは研究進行とともに必要な支出であるので、30年度の請求した助成金に加えて使用する計画である。
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