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2017 年度 実施状況報告書

スティグマとパッシングの数理モデル

研究課題

研究課題/領域番号 17K18577
研究機関東北大学

研究代表者

木村 邦博  東北大学, 文学研究科, 教授 (80202042)

研究期間 (年度) 2017-06-30 – 2020-03-31
キーワードスティグマ / 精神疾患 / ハンセン病 / HIV/AIDS / LGBT / 数理モデル / 不完備情報ゲーム
研究実績の概要

平成29年度は、先行研究のレビューを行い関連文献を収集するとともに、ゲーム理論的数理モデル構築のための基礎的な考察に従事した。
まず、スティグマとパッシングに関する知見を体系的に整理するために先行研究のレビューを行った。精神疾患に関わる文献(論文や手記・ルポルタージュ・統計資料など)を中心に、ハンセン病、HIV/AIDS、LGBT等に関する文献も収集した。ハンセン病とHIV/AIDSに関しては、社会学者・心理学者から口頭や電子メール等により情報提供・助言を受けた。日本におけるスティグマ研究は当事者よりも偏見を抱いている人々の側の問題に焦点をあわせたものが多いのに対し、海外の研究にはそのような偏見に対して当事者がどのような対応を取っているか、またその対応によって当事者の心理にどのような影響がもたらされるかに注目したものが多いことがわかった。
並行して、不完備情報ゲームに関する近年の理論的展開を検討し、スティグマとパッシングをゲーム理論的に定式化するための指針を探った。シグナリングゲームにおける「なりすまし」の議論を参考にして、スティグマを持つ者のパッシングが成功するためには一括均衡あるいは混成均衡が存在しなければならないという予想を導き出した。一括均衡あるいは混成均衡が存在するゲームの選択肢集合・情報集合・利得構造はどのような条件を満たすものなのか、コンピュータシミュレーションも利用しながら探索的な考察を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

スティグマとパッシングに関する先行研究のレビューは順調に進んでいる。精神疾患、ハンセン病、HIV/AIDS、LGBT等の当事者がどのような状況でどのようなパッシングの戦略を用いているか、パッシングを行うことにより当事者のディストレスに対してどのような影響が生じるかに関して英語で書かれた論文を多数収集できた。日本語文献にはこの種の研究はまだ少ないものの、近年になるほど増えて来ていることも確認できた。
パッシングに関する研究をしている研究者との研究会は、日程調整が困難だったためまだ実現できていない。これは、日本におけるスティグマ研究が当事者の行為や心理よりもむしろ人々の偏見にのみ関心を寄せる傾向が強いものであり、研究代表者の関心に沿った助言をお願いできる研究者が少ないからでもある。しかし、HIV/AIDSやハンセン病の問題に詳しい社会学者・心理学者からは、口頭や電子メール等により、これらの当事者が置かれている一般的な状況に関する情報提供や研究の方向についての助言を受けることができた。
数理モデルの構築は順調に進んでいる。まずシグナリングゲームにおける「なりすまし」に関する研究報告を数理社会学会第64回大会で報告した。この報告を基礎として、不完備情報ゲームをどのような形で定式化すればスティグマとパッシングに関する命題(特にパッシングが成功する条件に関する命題)が導出できそうか検討した。その成果を数理社会学科医大65回大会で報告した。

今後の研究の推進方策

引き続きスティグマとパッシングに関する先行研究のレビューを行い、シミュレーションなども活用して数理モデルの改善を進めるとともに、情報提供や助言をしていただける専門的研究者を早急に探して助言を求める。
スティグマを持つ者のパッシングが成功するという状況は一括均衡あるいは混成均衡で表現できるという予想が導かれたので、この種の均衡が存在する不完備情報ゲームの定式化をめざす。特に、スティグマを持つ者が「偽装」のために用いる道具をスティグマを持っていない者も用いることが重要であると考えられるので、スティグマを持っていない者にとっての誘因・利得の構造に関する考察を深める必要がある。数理モデルの概要は7月にトロントで開催される国際社会学会第19回世界大会の合理的選択理論部会において報告する。
不完備情報ゲームによる定式化の見込みが具体化してきた一方で、当初に想定してきた精神疾患ではなく、ハンセン病あるいはHIV/AIDS、LGBT等をむしろ念頭に置くのが適切である可能性も出てきた。この点についてさらに熟考し、具体的事例に照らす形で数理モデルの妥当性を検討するためにも、専門的研究者(社会学者・心理学者・文化人類学者・精神科医等)からの情報提供や助言が欠かせない。早急に適任者を探し日程調整を行い、研究会を開催したい。

次年度使用額が生じた理由

パッシングに関する研究をしている研究者との研究会が、適任者を探し日程を調整することが困難だったため、開催できなかった。そのため旅費および謝金(専門的知識の提供)の予算が予定どおりには執行できなかったので、次年度使用が生じることになった。
早急に研究者の人選と日程調整を行い、平成30年度のうちに研究会を開催する予定である。人選にあたっては、(1) 精神疾患だけでなくハンセン病、HIV/AIDS、LGBT等の研究者にも対象を広げる、(2) 社会学者・心理学者を中心にして可能であれば文化人類学・精神医学等の研究者にも打診する、という方針で臨みたい。
その他の費目については、当初計画にほぼ沿うような形で使用する予定である。物品費は主にシミュレーション用のソフトウェアのバージョンアップに用いる。旅費は国際学会および国内学会での研究報告のために用いる。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2018 2017

すべて 学会発表 (2件)

  • [学会発表] スティグマとパッシングのゲーム理論的定式化をめざして2018

    • 著者名/発表者名
      木村邦博
    • 学会等名
      数理社会学会第65回大会
  • [学会発表] なりすましか費用節約か?-教育シグナリング・ゲームにおける混成均衡に関する考察-2017

    • 著者名/発表者名
      木村邦博
    • 学会等名
      数理社会学会第64回大会

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公開日: 2018-12-17  

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