研究課題/領域番号 |
17K18577
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
木村 邦博 東北大学, 文学研究科, 教授 (80202042)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
|
キーワード | スティグマ / 精神疾患 / ハンセン病 / HIV/AIDS / LGBT / 数理モデル / 不完備情報ゲーム |
研究実績の概要 |
平成30年度には、前年度における先行研究のレビューとゲーム理論的数理モデルの構築とにもとづきながら、数理モデルの改善をさらに進め、事例研究との統合をめざす中で考察の妥当性を検討した。 不完備情報ゲームにおける完全ベイジアン均衡概念を用いて、パッシングが成功するのは選択肢集合・情報集合・利得構造に関してどのような条件が満たされる場合かを考察することができた。この考察の結果はトロントで開催された国際社会学会第19回世界大会の合理的選択理論部会において報告し、海外の研究者とも議論を行うことができた。 さらにこの数理モデルに関する研究会を、スティグマ研究を行っている医療社会学や数理社会学などの研究者とともに開催した。この研究会では特に、HIV/AIDS、ハンセン病、精神疾患、LGBTなどにかかわるスティグマとパッシングの具体的事例を取り上げて、数理モデルから導かれる予想やインプリケーションとの対応をめぐって議論を行った。この議論の中で、参加者の専門領域の観点から知識の提供と助言を受けることができた。 数理モデルによる考察と事例研究との統合をめざす試みの中で、スティグマを持つ者が「偽装」のために用いる道具をスティグマを持っていない者も用いることが重要なポイントであることがわかってきた。スティグマを持っていない者にとっての誘因・利得の構造に関する考察をさらに深め、不完備情報ゲームモデルの均衡分析の展開につなげることが今後の課題である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度には、前年度における先行研究のレビューとゲーム理論的数理モデルの構築とにもとづきながら、数理モデルの改善をさらに進め、考察の妥当性を検討した。 数理モデルの改善は順調に進んだ。不完備情報ゲームにおける完全ベイジアン均衡概念を用いて、パッシングが成功するのは選択肢集合・情報集合・利得構造に関してどのような条件が満たされる場合かを考察することができた。この考察の結果はトロントで開催された国際社会学会第19回世界大会の合理的選択理論部会において報告し、海外の研究者とも議論を行った。さらにこの数理モデルに関する研究会を、スティグマ研究を行っている医療社会学や数理社会学などの研究者とともに開催した。 数理モデルによる考察の妥当性の検討も順調に進んだ。上述の研究会では特に、HIV/AIDS、ハンセン病、精神疾患、LGBTなどにかかわるスティグマとパッシングの具体的事例を取り上げ、数理モデルから導かれる予想やインプリケーションとの対応をめぐって議論を行った。この議論の中で、参加者の専門領域の観点から知識の提供と助言を受けることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続きスティグマとパッシングに関する先行研究のレビューと数理モデルの改善を進めるとともに、専門的研究者と研究会を開催して議論を行い助言を求める。 スティグマを持つ者のパッシングが成功するという状況を混成均衡で表現できるような不完備情報ゲームモデルを構築することができたものの、より精緻な議論を展開するためにはさらに改善が必要である。特に、スティグマを持つ者が「偽装」のために用いる道具をスティグマを持っていない者も用いることが重要であると考えられるので、スティグマを持っていない者にとっての誘因・利得の構造に関する考察を深めることが不可欠である。この考察の結果については、2020年3月に開催される第69回数理社会学会大会で報告する予定である。また、数理モデルによる考察の妥当性を検討するために、ハンセン病、HIV/AIDS、LGBTなどにかかわるスティグマとパッシングの具体的事例に詳しい専門的研究者(社会学者・心理学者等)と研究会を複数回開催する予定である。 年度内に最終的な研究成果のまとめを行い、学術誌に原著論文を投稿することを目指している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
スティグマとパッシングに関する研究をしている研究者との研究会は、適任者を探し日程を調整することが困難だったため、平成30年度には1回のみしか開催できなかった。そのため旅費および謝金(専門的知識の提供)の予算が予定どおりには執行できなかったので、次年度使用が生じることになった。 早急に研究者の人選と日程調整を行い、平成31年度(2019年度)のうちに研究会を複数回開催する予定である。人選にあたっては、(1) 精神疾患だけでなくハンセン病、HIV/AIDS、LGBT等の研究者にも対象を広げる、(2) 社会学者・心理学者を中心にして可能であれば文化人類学・精神医学等の研究者にも打診する、という方針で臨みたい。 その他の費目については、当初計画にほぼ沿うような形で使用する予定である。物品費は主にシミュレーション用のソフトウェアのバージョンアップに用いる。旅費は国内学会での研究報告のために用いる。
|