国家間での電力の貿易計画の多くは実現の見通しが立っておらず、一般には関係国間の外交上の問題が障壁であると解釈されている。しかし、関係国間の「外交」ではなく、貿易に関与する国における「内政」上の問題が、電力の貿易が実現を妨げていることを本研究は明らかにした。 米国、ハワイ州では経済活動の中心であるオアフ島での自給が隘路となっている。その解決策として、再生可能エネルギー源が豊富な他島からの送電が検討されているが、現状では実現の見通しが立っていない。オアフ島に送電(売却)する立場であるマウイ島およびハワイ島に於いて、環境保護団体が風力発電所の建設に反対するキャンペーンを展開し、その結果として住民からの賛同が得られなかったことが、その原因であることを明らかにした。 インドへの電力貿易が実施されているブータンと、インドへの送電が実現に至っていないネパールを比較検討した結果、ネパールについては、その地形的な条件から発電価格が高価であること、国内で技術者が欠如している為に水力発電所を設計・建設する際の諸コストが高いこと、政治的に不安定で長期的な経済開発計画がを立案し得ないこと、などが同国での水力発電による他国への電力輸出を妨げていることを明らかにした。 中央アジアのタジキスタンでは、同国では複数の電力輸出計画が、国際機関が主導する形で進められている。しかし、同国内に於ける行政官および技術者がこ非力であることから、本来であれば同国が主導すべき「援助国協調」が有為には機能していないことを明らかにした。 中東に関しては「湾岸諸国電力網」計画を事例とした。同電力網に参加している国々は産油国であり電力を他国から輸入することには熱心で無いこと、電力貿易の実現には不可欠な国家間の信頼関係不十分であること、参加国を「ネットワーク化」することの便益が希薄であること、を明らかにした。
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