研究課題/領域番号 |
17K18585
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
澤田 千恵 県立広島大学, 保健福祉学部(三原キャンパス), 准教授 (20336910)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 専門職 / 専門家支配 / 減断薬 / 向精神薬による薬害 / 医療化 / 医薬化 / 認知バイアス |
研究実績の概要 |
インタビュー調査を計画・実施した。調査対象者は、減断薬を経験した当事者、家族、支援者(専門職や民間団体代表)等、計38名である。データの分析・考察は次年度の課題であるが、以下に今回の調査の特徴を簡単に報告する。 (1)これまでに実施した当事者調査では、大半が自力による減断薬実行者だった。今回の調査では、13名の当事者インタビューを行ったが、全員が専門的サポートを得て、減断薬を実行していた。 (2)専門職の薬に対する態度:精神保健福祉士(PSW)5名にインタビューし、養成教育課程及び福祉職としての職場経験を通じて、薬は医療の問題だという認識や服薬を絶対視する見方が形成されていくことがわかった。これは、作業療法士(OT)2名に対するインタビューでも同様の結果だった。しかし、このことは薬の問題が見えなくなることを意味するのではない。問題を認識しても、薬の処方は医師の裁量権であり、コメディカルは口出ししてはいけないという自己規制が作用するのである。 (3)専門職が直面するジレンマとそこから明らかにすべき課題:PSWなら「人権擁護」、OTなら「全人的復権」というように、それぞれの職種の価値や理念があり、当事者が「薬害」にさらされている状況を看過することは容易ではない。そこで口をつぐむか、なんらかの具体的な行動をとるかで、専門職としてのありかたは大きく変わりうる。具体的行動に踏み出す専門職たちの行動原理はなんであるかを、データの分析を通して明らかにする。専門職が問題に気付いた時にとりうる行動のバリエーションを明らかにし、専門職の気づきや行動のしかたをシステムにフィードバックさせる方法について考察することで、薬物療法に依存しない支援システムをモデル化することが可能になると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年7月に豪雨災害に遭い、勤務先と自宅が断水等の被害を受けた。またもっと深刻な被災地域へのボランティア活動等にも従事したため、その期間中、研究に従事することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
(1)当事者、遺族、精神科医、薬剤師、精神科看護師へのインタビューを実施する。 (2)当事者調査からは、多剤大量処方や症状の慢性化・重篤化に至る道筋が明らかになった。具体的には、「医者の指示通りに服薬を続けることが患者としての務め」「精神疾患は脳の疾患であり薬を飲まなければ治らない」「副作用があっても病気を治すためには服薬を続けなければならない」等の認知が、薬害を認識することを阻んでいた。このような認知は、コメディカルも共有していた。今回の調査では家族・遺族へのインタビューも実施している。分析はこれからであるが、家族は精神科の治療をどのように捉えているのか、当事者やコメディカルとはどのような相違点があるのか等を明らかにする。 (3)医師、医師以外の医療や福祉の専門職、当事者、家族、市民団体の代表者という各立場の人たちが、精神科の治療について語ったことを比較検討する。そして、精神科の治療や精神疾患に対して、いかなる認知の変化が各人に起こり、その結果として、いかなる行動および人生の変化がその人にもたらされたのかを明らかにする。当事者に起きた典型的な変化は、「精神障害者」からの解放である。このような状況をもたらす以前の認知バイアスと、変容後の認知を明らかにすることで、薬物療法に偏重した現在の治療や回復像を相対化する視点を提示する。
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次年度使用額が生じた理由 |
水害による被災により研究に遅れが出たため。次年度にもインタビュー調査を継続して実施するため、調査費用として使用する。
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