精神科における多剤大量処方による「被害」は、精神科関係の学会においても、しばしば取り上げられるテーマだが、解決がなかなか困難な問題である。外部からは様々な観点からの厳しい批判もなされている。例えば、精神科医の薬理作用に対する無知、製薬会社との癒着、経営の論理の優先、短時間診療にならざるを得ない制度の問題、優生学的思想の影響等が指摘されている。本研究は、それらの観点とは少し異なり、多剤大量処方が生じる要因として、精神疾患や精神科治療薬に対する認知や専門職の責任感のありようが影響しているという仮説(簡単に言えば、“悪くしようと思ってやっているのではなく、良くしようと思ってやっているのに、結果として逆説的な作用、すなわち「悪化」や「被害」につながってしまう”という捉え方)に基づき、リカバリーを促進する治療や支援を行なっている専門職らを対象にインタビュー調査を行い、どのような認知のあり方や専門職の内部に生じた変化が、当事者のリカバリーを促進する支援につながっているのかを明らかにすることが目的である。 同時に、精神疾患・精神障害の状態からリカバリーした当事者で、精神科の薬を断薬した人たちにインタビューを行い、服薬中と断薬後とではどのような認知や認識の変化が生じているかを明らかにする。 以上の目的に沿って、インタビュー調査を計画し、この研究期間を通じて、たくさんの事例・データを収集することができた。今年度は改めて、それらのデータを分析する方法を検討し、データの分析に着手した。今年度は、標準的な診療から薬を使わない診療へとシフトした精神科医の語りを、SCAT(Steps for Coding and Theorization)を用いて、その変化のプロセスを明らかにした。
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