研究課題/領域番号 |
17K18588
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研究機関 | 愛知大学 |
研究代表者 |
湯川 やよい 愛知大学, 文学部, 准教授 (20723365)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | セクシュアリティ / ジェンダー / ペドファイル |
研究実績の概要 |
本研究は、非触法ペドファイル(子どもを性的な対象とする小児性愛者のうち、性加害を実行したことがない人々)の実態を、当事者の語りから読み解く仮説生成型の研究である。2019年度は特に以下の3点に注力した。 (1)既存インフォ―マントの継続調査(国内調査)、(2)新規インフォーマントへのアクセス成功(国内調査)、(3)関連ジェンダー研究領域での範囲を広げた文献研究、および学際的な情報収集。(1)に関しては、特に、ライフステージの変化を経験したインフォーマント2名について複数回にわたるインテンシブな聞き取りを行えた点に意義があった(第1子誕生、パートナーとの離別、就職と居住地域移動など)。また、(2)に関しては、①過去(未成年期)における触法ペドファイルとの接触経験をもつ対象者、②過去にペドファイル性を自認した経験をもちその後喪失した経緯を語る対象者に新規アクセスできたことが、ケースの多様性を確保する点で重要であった。
上記の作業に基づき、事例横断分析の結果をまとめ国内学会報告(10月)を行い、フィードバックを得られた。また、年度前半に本助成研究とは別の研究プロジェクトにおいて、教育・労働研究領域での研究者たちと共同レビュー作業(和文雑誌掲載、6月)を行ったことを契機に、特にインターセクショナルなジェンダー理論関連および方法論の領域における、より広い知見を得られた。7月以降はそこで得られた知見を本研究において援用する可能性を探り、文献研究の範囲を広げられたことも(上記(3)の作業)、挑戦的研究としての意図せざる成果であったといえる。
なお、2019年度は本来最終年度であったが「現在までの進捗状況欄」記載の事情等により補助事業期間延長を申請し認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
進捗の遅れについては主に2つの理由がある。
第1は、海外調査(フィールドワーク)の延期・見直しを余儀なくされた点である。2019年夏季休業中に海外調査(北米およびドイツ)を予定し慎重に調整を進めてきたが、調査先の状況および研究代表者側の事情(急病。短期間で完治)等が重なり、年度末の2020年2月後半~3月中旬に調査を延期するべく再調整をしてきた。しかし、COVID-19の流行により年度内の海外渡航自体が不可能となった。 第2は、国内調査に関して取得・分析済データの重要な一部にかかわる既存インフォーマント(若年者)とのラポール維持困難が生じたことである。この数か月関係修復を試みてはいるが回復が確実とはいえない。現状では一次資料を利用した分析・成果発表の範囲が大幅に狭まっているため、類似ケースを新規に見つけだすためにさらなる時間を要する。挑戦的研究である本研究においては想定されるリスクではあったものの、当該ケースは2年間の調査を通底する重要な仮説的論点の一軸となるインフォーマントであるため、計画全体への見直しと成果発表の遅れに直結する事態となった。
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今後の研究の推進方策 |
第1の海外調査に関しては、今後のCOVID-19にかかわる社会状況を見て判断せざるを得ない。可能な限り実施したいが、年度内に海外調査が行えない可能性も踏まえ、これまで予定してきた団体とは別の団体(より匿名性が高い団体で当初はフィールドワーク困難と判断し調査対象から除外していた)に所属するメンバー個人への調査なども新たに視野に入れ、フィールドワークに代わる完全匿名オンラインインタビュー等が可能であるかも検討する必要がある。
第2の国内調査に関しては、引き続き一時的に音信不通状況となっている一部キーインフォーマントとのラポール回復に努めつつ、すでにオンラインでの調査継続の承諾を得ているインフォ―マントへのオンライン聞き取りを行うことができる。また、2019年度末にこれまで対面での調査を依頼し断られていた新規インフォーマントの一部より「完全匿名の音声のみオンライン調査であれば場合により可能」との限定的承諾を得られるかもしれない見込みもあり、これまでアクセスできなかった層を取り込んだ調査対象者拡大の可能性も見えてきた。
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次年度使用額が生じた理由 |
最大の理由は、海外調査の次年度延期にある。次年度使用額については、主に延期された海外調査の渡航・滞在費、および現地通訳・ガイド等への謝金等にあてる予定である。 また、今年度の調査対象者の一部に、完全匿名を希望するために大学を通じた謝金・交通費等の支払いを辞退する方がいたことも、副次的な理由である。次年度使用額は、次年度の新規インフォーマント(遠方在住者を含む)の交通費(または研究代表者が出張調査する場合の旅費)、調査対象者への謝金、およびデータ整理・分析に使用予定である。
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