本研究は、非触法ペドファイル(子どもを性的な対象とする小児性愛者のうち、性加害を実行したことがない人々)の実態を、二次資料および一次資料をもとに考察する探索的研究である。なお、二次資料については、2010年代以降の新しい言説を中心に考察してきた。特に、近年「善良なペドファイルVirtuous Pedophiles 」「反接触派 anti-contact pedophiles」と自らをカテゴリー化する海外当事者団体が性犯罪の抑止を第一目的に活動しはじめた現状において、それらの新しい団体の運動言説とそれ以前の当事者団体との差異化・差別化の状況、およびそれらの諸言説の社会的受容状況に注目してきた。 今年度は、前年度までの経緯(コロナ渦による海外当事者団体・関連地域住民調査の中止、およびその期間に生じた団体関係者と仲介役との間のラポール喪失等予期せぬ計画変更、および一部国内継続調査対象者側の状況変化)を踏まえ、限定的であるが実施できた国内調査を読み解く基盤となるような理論的考察に注力した。(1)「圧倒的な他者」の知と向き合う批判的研究の意義と限界にかんする文献検討を行った。特に、2000年代に提起された公共社会学論争でほとんど議論がなされなかった論点(ジェンダー・セクシュアリティ研究の核にある規範性とM.Burawoyのいう公共社会学とのズレと重なり)に注目した考察を行い、学会シンポジウム発表(昨年度)を経て論文発表した(和文)。(2)国内調査については、期間内に一定数の事例蓄積は実現できなかったものの、今後の調査のための萌芽となりうるネットワーキングができた。また、ラポール形成・維持の失敗を含めて当該テーマでの調査活動に特有の課題も把握できた。 以上から、挑戦的研究(萌芽)として、今後の探究につながる一定の基盤を作れたと考える。
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