令和4年度は,前年度までに実施した調査の継続した分析と結果の整理を行った。 1.当事者へのインタビュー調査を基に,性的マイノリティ高齢者の主観的な生活上の課題・不安の構造とその背景について質的に分析を行った。分析の結果,差別・偏見の経験が様々な影響を及ぼしてきたことや,支えになる人間関係があると自己否定につながらないこと,自己を律する意識と行動が強調されていること等が明らかになった。 2.特別養護老人ホームのスタッフを対象としたアンケート調査から,レズビアン,ゲイ,バイセクシュアルの入居者に対する対応とそれらに関連する要因を分析した。因子分析によりスタッフの対応は「積極的な対応」と,「批判的な対応の回避」の二次元であることが明らかになった。そして,積極的な対応には本人の希望の推測が,批判的な対応の回避には,同性愛者に対する嫌悪感,同性愛者に対する態度,本人の希望の推測が有意に影響していた。 3.特別養護老人ホームのスタッフを対象としたアンケート調査の自由記述に関する質的な分析を行った。その結果,多くのスタッフは性的マイノリティ入居者に対して受容的であり,対応に有用な知識を得たいと考えていた。しかし一部には,固有のニーズに対する理解不足等があることが明らかになった。 これらの研究から,性的マイノリティ高齢者に対しては,地域社会でのつながりや安心できるフォーマルサービスの構築等が必要な事が示唆された。そして,サービス提供者に関しては,性的マイノリティに関する正確な知識を得て理解を深めることが必要であることと,サービス利用者の個々のニーズを理解する能力を開発することの重要性が示された。
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