研究課題/領域番号 |
17K18591
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
菅野 博貢 明治大学, 農学部, 専任准教授 (40328969)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 墓地計画 / 自然葬 / 合葬墓 / 循環利用 / 永続的システム |
研究実績の概要 |
現在は「多死時代」といわれ、超高齢化社会の進行とともに2038年をピークに死亡者数は右肩上がりで増加することが予想されている。このような状況下、墓地をめぐる問題は単なる墓地不足だけではなく、無縁墓の増加、墓石の不法投棄など多様な広がりを見せはじめている。その一方で、死後の墓地管理を要しない合葬墓の人気は高まり続けており、都営霊園での取得倍率は20倍を超えている。また、墓地の循環利用が容易な自然葬への関心も高まっているが、我が国ではまだ特殊な形態ととられ、実質的な普及には至っていない。本研究においては合葬墓と自然葬の適切な普及が、今後の多死時代に対応するための大きな鍵になると考え、その現状を把握するとともに課題を明らかにすることを目的としている。 一方、海外に目を転じると、オランダのように既に墓地の永続的な循環利用をほぼ達成している国もあれば、ドイツのように19世紀の終わりから墓地にビオトープを組み込みつつ、周辺をクライン・ガルテン(市民農園)として計画し、都市の豊かな緑地空間としている国もある。これらドイツ語圏の墓地は、現代の日本と比べてもはるかに先進的なシステムを内包している。他方、景観的な美しさで言えば、イタリアの墓地はランドスケープ・デザインも、個々の墓碑も芸術的な水準に達している。また、スペインなどは積極的に先進的なデザイン・コンセプトを取り入れ、墓地自体がコンセプチュアル・アートのような体裁を有している。筆者は本助成研究を開始する前に、すでにヨーロッパ、南北アメリカ、東アジア等、先進国の墓地を250箇所以上現地調査してきたが、2017年度にイタリアとスペイン南部を取材して、まだまだ収集すべき墓地の情報があると知らされた。日本国内で地道な自然葬墓地の調査を続けるとともに、まだ取材の完了していないエリアについて、引き続き情報収集と現地調査を実施する計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の対象地は国内と海外に分けられる。国内における自然葬はここ数年で急増する傾向を見せている。だが、本助成による研究を開始して間もなく、近年の国内の自然葬墓地に対する利用者の満足度が低いという墓地管理者からの声を頻繁に聞くようになった。当初は自然葬のディテールまで踏み込んで、そのあり方を検討する方針ではなかったのだが、先行した業者による利益優先とも捉えられるその埋葬形態は、看過できないものと判断された。例えば、「樹木葬」といっても塩化ビニール管を加工したものに収めて地中に保管するもの、ステンレスの容器にいれて地中に埋めるものなど、「自然に還らない自然葬」の実態が明らかになった。このような自然葬黎明期といえる我が国の状況を鑑み、国内で実践されている自然葬の形態を正確に捉えることから調査を進めている。 地域的には東京都内から調査を開始した。その後東京都周辺から神奈川県内に範囲を拡大しているが、自然葬墓地が最も多い千葉県や埼玉県など、関東東部に広げている。今後は、さらに関西地方でも調査を行う計画である。 海外の事例研究については、当初は過去に訪れて資料収集の容易さを知るオランダから調査を始める計画であった。だが、2017年6月末に筆者が出版した『世界の庭園墓地図鑑』への反響が大きく、まだ空白地帯となっていた先進国の事例を先に収集し尽くす方針とした。2017年度は「美と実」が融合するイタリアの近代墓地と芸術性の高い墓碑彫刻に大きな影響を及ぼしたアントニオ・カノーヴァの業績について現地調査を実施した。その後、現代建築の巨匠ル・コルビュジエの墓所のあるフランス南部の墓地、先鋭的なデザインをまとったスペインのイグアラダ墓地等、まだあまり知られていない墓地形態を取材し、資料収集することができた。
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今後の研究の推進方策 |
当初、墓地問題の認識としては、以下の1)~9)について特に解決しなければならない問題ととらえており、特に既往研究のない5)~9)の問題を中心に検討することを目的としていた。 1) 都市近郊の墓地不足、及び墓地価格の高騰、2) 墓地(形態)に対する個人、及び家族の意識の多様化への対応、3) 都市郊外の墓地開発と近隣住人との軋轢、4) 特に地方都市における無縁墓の急増、5) 無縁墓の処理における墓石の不法投棄(「墓の墓」とよばれる)の問題、6) 自然葬普及を妨げる散骨場建設における周辺住人との軋轢、7) 自然葬普及を妨げる地方自治体による散骨場建設の不許可、8) 本来生産性の高い都心部での墓地ビルの建設、増加(「都市のネクロポリス化(墓場化)」)、9) 外国人(特にイスラム教徒)に対する差別的扱い(多様な宗教との共存)。 しかし、本助成研究において調査をすすめる中で、自然葬が急増する一方で、自然葬そのものに対する不満や拒否感が増長している現実に突き当たった。本研究は国内において墓地の循環利用を促す方策を検討しつつ、国外ではすでに循環利用を達成している主に先進国の墓地システムを収集している。2017年度は地道な現地調査によって東京周辺の自然葬墓地約50箇所の現況を確認した。そして、塩ビ管やステンレス容器に焼骨を収め、「自然に還らない自然葬」が如何に多いかを明らかにした。実証的な検証はこれからであるが、このような「自然葬」のあり方そのものが、墓地の循環利用を促さない元凶である可能性が高く、次の2年もこの問題に取り組む方針である。 一方、海外の事例収集は、時間と体力の問題が大きいが、空白地帯のオセアニアとヨーロッパのスペイン、ポルトガルでの取材を進め、その後に墓地システムの先進国と考えるオランダ、ドイツでより深く循環システムのあり方を調査、研究する方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外調査に出る期間が十分に取れなかったため、旅費の使用が計画よりも下回ったため。
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