研究課題/領域番号 |
17K18591
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
菅野 博貢 明治大学, 農学部, 専任准教授 (40328969)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 墓地 / 循環利用 / 合葬墓 / 無縁墓 / 死生観 |
研究実績の概要 |
超多死時代に入った現在、墓地を巡る環境も大きく変化している。都市近郊の一般墓地の価格が高止まりする一方で、公共墓地の合葬墓や屋内型集合墓の人気が高く、需要に見合う供給がなされていない。さらに、地方都市では無縁墓の急増や、無縁化した墓石の不法投棄などの深刻な問題も発生している。本研究は、このような社会状況と墓地の問題に対する解決策を探求すべく、主に次の二つの点で調査、研究を行ってきた。 一つは、墓地の循環利用を前提とした墓地利用システムのあり方についての調査、研究である。この調査・研究に対しては、2013年から行っている海外の事例研究を引き継いで実施した。2018年度はオーストラリア、ニュージーランドにて現地調査を実施した。この二カ国については、調査前の情報が全くなかったのだが、特にオーストラリアは、世界でも最先端の墓地利用システムや、思想的自由を許容する国であることが明らかになった。例えば、アデレードの公共墓地では棺や死装束を完全に生分解性の素材とし、酸性土(炭酸カルシウムでできている骨まで分解するため)で埋葬することで、完全に遺体を自然に返す埋葬法が取られていた。 二点目は、日本人にあった埋葬法を探求するための調査である。現在、一般的に見る墓石を重ねてその下部のカロートに焼骨を収める埋葬法は、決して古い伝統的な形ではない。また、檀家制度のように寺を中心として墓地が設けられる制度も江戸幕府の戸籍管理の方法を引きずるものであって、本来的に日本人の死生観を反映したものではない。本来、日本人がどのように「死」と向き合ってきたのか、その点を明らかにしておくことも重要であると考え、江戸時代以前の古い形が残っていると考えられる近畿地方において調査を実施した。既に宗教学や社会学の分野で研究が進むエリアではあるが、ランドスケープ研究の点からも新たな知見を得ることができつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本科研費取得以前からの調査研究により、ヨーロッパの大部分、南北アメリカ、オセアニアの他、アジアの一部の墓地でもフィールドワークを実施した。今後フィールドワークを行いたいエリアは、主にドイツ中部からオランダにかけてのエリア、スペインアンダルシア地方からポルトガルにかけてのエリア、南米エクアドルの3地域となった。 ドイツ中部からオランダにかけてのエリアでは、世界で最も先進的な墓地利用システムを持つオランダと、墓地とエコロジーが結びついた土地利用を19世紀末から行っているドイツにおいて、情報収集を進めてきた。オランダではアムステルダム、ドイツではハンブルグとミュンヘンでのフィールドワークを既に実施した。今後はそれ以外の都市を対象として調査を実施したい。 スペインについては、世界で最も埋葬者が多いと推定されるマドリッドのアルムデナ墓地とバルセロナの公共墓地でフィールドワークを実施した。スペインアンダルシア地方からポルトガルにかけての墓地は、全く未踏の対象であるので、情報収集を進めたい。 エクアドルは毎年調査を実施したいと切望してきたが、対象地がコロンビアとの国境に近いことから、治安上の問題があり、まだ調査を実施できていない。限られた資料によると、トピアリー(刈り込んだ樹木)で構成された独特の墓地景観を有している。今後も状況を見て調査を実施したいと考える。 国内の調査対象地においては、日本人の古来の埋葬慣習を残していると考えられる近畿地方での調査をさらに進めたい。昨年度実施した奈良県から三重県にかけての、所謂「両墓制」エリアでは、「死」の穢れに対する対応と、残された人々の気持ちを鎮めるための装置としての墓のあり方が、一部ながら垣間見えた。今年度は調査範囲と対象を増やし、その点を明確にしたいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本格的に墓地の循環利用についての研究を始めたのは2013年度からである。本科研費の交付を受ける前は主に自費での調査であったため、過酷な移動や最低限の宿泊施設(ユースホステルなど)しか利用できなかったのだが、科研費交付以降は最適化された移動経路での移動や、一般のホテルの利用が可能になり、研究も順調に進んでいる。ただし、海外での調査は前後の移動も含めてまとまった期間な必要であり、思い通り研究費を消化することが難しい点もあった。そのため来年度以降に1年研究期間を延期申請し、本年度を含めて残り2年で前述の進捗状況に記した未調査エリア、対象の調査を実施する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外での調査は前後の移動も含めてまとまった期間な必要であり、研究期間の確保が難しく、計画通り研究費を消化することが難しい点があった。そのため来年度以降に1年研究期間を延期申請し、本年度を含めて残り2年で前述の進捗状況に記した未調査エリア、対象の調査を実施する計画である。
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