本研究の目的は①シングルマザー自身が生活上の課題に対してどのような生活戦略(主に職業生活と家族生活の戦略)を採っているのか、そして②親が採る生活戦略とそのプロセスは子ども世代の生活状況や進学、就労および家族形成にどのような影響を与えるのかを縦断的なインタビュー調査にもとづいて明らかにすることだった。 本研究により明らかにしてきたことは主に3点ある。1つめはシングルマザーの仕事生活と家族生活の生活戦略に関する知見である。具体的には①約半分の事例で転職するなどシングルマザーは仕事生活に関する生活戦略を高い頻度で実行していたこと、②所得と職位の安定を求めて正規に転職しても収入が上昇しないという意図せざる結果も生じていることが明らかにされた。 2つめは、シングルマザーの子どもの進路に関する知見である。インタビュー調査の結果、シングルマザーの場合、大人ひとり分の資源(資金、時間、意識、情緒)ですべての事態に対応しなければならないしんどさがあること、予想外の事態が起こった際に迫られる戦略の見直しお金や時間のやりくりが必要なこと、子どもの具体的な進路選択については「子に任せる」世帯が多いことが明らかにされた。 3つめは、シングルマザーの子どもと親の親子関係に関する知見である。1つめは、ひとり親世帯の親もまた、物わかりのいい子どもを求めていること、学校であった嫌なことは家に持ち込まない、親も仕事のことを家に持ち込まない傾向があること、仲裁役の不在から生じる暗黙の家族規範の存在などが示された。 以上からシングルマザーは所得の安定等のために仕事の転職行動を含めて多くの生活戦略を繰り出していること、子どもの進学に関しては子ども任せにすることが多く積極的に関与することが難しい状況にあること、親子関係に関しては良好な関係を維持するためにあえてお互いに踏み込まないなどの調整を行っていることが明らかにされた。
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