研究課題/領域番号 |
17K18599
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研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
前田 忠彦 統計数理研究所, データ科学研究系, 准教授 (10247257)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 層化 / 二段抽出 / 地点間異質性 / ウェブ調査 / 有意抽出 |
研究実績の概要 |
2019年度は,前2年度の理論的な検討・既存データでの予備的解析に基づき,研究目的にかなう調査設計指針を得て,ウェブ調査により実例としての調査データを取得し,提案設計指針の妥当性を検討することを予定していた。しかしながら,前2年度の検討では本研究の目的である「マルチレベル分析」に有利な調査設計指針を得るに至らなかったため,2019年度も[1]引き続き理論的検討と既存調査の分析を行うこと,と,[2]調査設計の方針を変更し,当初想定のうちの一部条件でのウェブ調査を実施すること,の2点の研究を行った。 [1]に関しては,何らかの無作為性を仮定する限り,通常の社会調査で用いられるような層化と二段抽出を組み合わせて得る「ネストした構造の(マルチレベルの)データ」について,地点間異質性を高める実践的な手順は設定しにくいとの見通しを得て,基本的には本研究の立脚点の正当性が十分に保証されないように思われた。裏返すと有意抽出以外に,地点間異質性を積極的に高める方策を見いだすことが未だ難しいと考えられる。 [2]このため,実データの取得について大規模な実験調査を1本行う計画はリスクを伴うことから,ひとまずベンチマークとして,標準的なセッティングでのデータを取得しておくこととして,2020年2月に,ウェブ調査を実施した。他の科研プロジェクトと合同で,テーマを「ゲノム編集技術に関する市民の受容」としたウェブ調査を,日米独3カ国で回収標本サイズ3000程度の条件で実施した。この回収標本の中には,ウェブ調査でしばしば問題になる「手抜き回答」者が含まれる可能性があることから,その識別(と有効回答からの除外)のための条件を検討し,3割程度の不良回答を削除することで,データの質を上げられる見込みを得るところまでの解析を行った。 期間を次年度まで延長し,残りの解析を実行し,成果のとりまとめを行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
前2年度の理論的検討が遅れたこと,既存実データに基づく理論的予想の検証が当初見込みの通りには進まず,研究目的とした「マルチレベル分析に有利な標本設計」の指針は得られていない。このことから,本格的に実データの取得(ウェブ調査による)のフェーズへ移行することができておらず,今年度までに,標準的な調査設計での多国間比較ウェブ調査を実施するのみに止まった。このデータは一種のベンチマーク(対照群)として,地点間異質性を目的変数の性質に応じて評価し,さらにその状態の国際比較を行うことを目的として実施した。この予備的な調査についても,不適切な回答行動を取る回答者の存在が示唆されることから,そのチェックを行う方法上の検討を行うところまでで,当初予定の3年間の研究期間が経過した。期間を延長して引き続き検討に取り組む。
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今後の研究の推進方策 |
延長された研究期間において,これまでの検討から得られている方針を一部軌道修正しながら,最終のウェブ実験調査(本調査)を行うこととする。2019年度調査は予備的な標準的設定での国際比較調査としたが,2020年度の本調査は国内調査に限定しておく。ここでは研究構想時に設定した3条件(対照群:標準的設定,実験群1:層化の工夫による地点選出,実験群2:有意抽出による地点選出)という設定の実行可能性を改めて検討した上で,妥当な比較デザインを考慮し,ウェブ調査を委託実施することによって,条件間の比較が可能な実データを得る(2020年度前半)。2020年度後半をその解析に当て,成果を取りまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度までの理論的及び既存実データに基づく検討では,研究目的にかなった調査設計指針が得られなかったために,実例提供用のデータ取得のために予定していた大規模実験調査を実施することができなくなった。このため一部の対照群に相当する条件での調査のみを実施し,それ以外の条件は次年度に引き続き検討・実施することとした。 2020年度に,これまでの検討結果を総合した,実例提示用データ取得のための実験的調査(本調査)をウェブ用により実施する予定であり,費用の大半をこのウェブ調査の設計と委託実施に割り当てる予定である。
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