H31年度の主な実績は①北海道アイヌ(鵡川アイヌ文化伝承保存会を対象)の「文化変容」を明らかにした上で次世代の伝承者育成のための伝承ツールの構築、②樺太アイヌ(樺太アイヌ<エンチウ>協会を対象)の「文化の再現」として樺太アイヌ古式舞踊に関する先行研究をもとにした舞踊のCG映像作成、の2点にある。 ①は、鵡川アイヌ文化伝承保存会および北海道教育大学(札幌校・岩見沢校)の学生に協力を得て、過去の再現を含む10演目に関する舞踊伝承映像「鵡川地方におけるアイヌ古式舞踊―初習者向け伝承プログラム」(DVD、報告書付)を作成した。現在、活発に伝承・普及活動を行なっている当該保存会は、会員の高齢化という問題を抱えている。従来の口頭伝承による直接的な伝承活動が実施できなくなる可能性を考慮して、踊り方・歌い方などのパフォーマンスそのものの指導だけではなく、各演目に関する文化的コンテクストやこれまでの変容の過程に関する情報を組み込んだ包括的な伝承ツールを過去3年間の調査データおよび保存会会員と研究者間の対話をもとに開発・制作した。 ②は、樺太アイヌの歌や舞踊は、現在文化振興が盛んに行われている北海道アイヌのケースと異なり、ほとんど伝承実態がない状態にある。樺太アイヌ協会会員および芸術工学研究者である松永康佑(札幌市立大学)とその研究室学生らの協力を得て、樺太アイヌの歌や舞踊に関する過去の記録映像をもとに、彼らの歌と踊りをコンピュータグラフィックス技術を応用して再現するという新たな試みを実施した。その成果は、「モーションキャプチャおよびCG技術による樺太アイヌ古式舞踊の再現」(DVD付き報告書)としてまとめている。なお、CG映像の中で参考にした、衣装や背景画像は樺太アイヌ協会会員の祖先が居住していた樺太(ロシア・サハリン州)での現地調査で得たデータに基づく。
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