研究課題/領域番号 |
17K18613
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田口 純子 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 客員研究員 (50759488)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 不登校 / ゲーム / PBL / 発達障害 / 建築教育 |
研究実績の概要 |
既存の学習環境に馴染めない子どもの引きこもりの背景に、特定領域への強い関心がある。特に、ネット、ゲーム、バーチャルへの強い関心については、依存として問題視されることが多いが、依存を解消することは多くの場合困難である。従ってその強い関心を、高い意欲とスキルとして活用し、実社会と結びついた学び・仕事に転換する方法の開発が必要である。 本研究では、オンラインの仮想世界に自由にブロックを積み上げるものづくりゲーム「マインクラフト」を用いて、リアルな文化財を再生するまちづくりプログラムを開発し、引きこもりの子どもの学習保障、就労支援を行う。 29年度前半は予備実験として、東京大学にある歴史的建造物の再現プログラムを実施した。合わせて参加者の学習・生活実態調査を行い、不登校日数とゲーム依存時間が比例するのみならず、背景に読み書きの困難や特定領域への強い関心、学校教育への動機付けの困難があることを明らかにした。また、ゲームを参加ツールとしたプロジェクト型学習への動機付けから、学習意欲・学力の向上を支援できる可能性を示した。 29年度後半は、予備実験の成果発信を通して、引きこもりの子どもや若者に限らず、自治体、教育機関、企業、地域住民等がまちづくりプログラムに対して持つ関心を新たに発見し、産学民官の主体同士が実社会で協働できる新たなプログラムの開発可能性を見出した。そこで、(1)大阪心斎橋の通信制高校N高等学校と地域企業・住民を結ぶまちづくりプログラムと、(2)埼玉県深谷市の自治体・地域住民と引きこもりの若者を結ぶまちづくりプログラムの、二事例において研究実施体制を構築し、(1)では短期間のプレプログラムを実施した。30年度は、二事例の参与観察を通して、従来の学校教育やまちづくりでは協働が想定されていない、引きこもりと産学民官の主体同士が協働できるメカニズムを、質的な分析手法により明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究に先立つ実験準備および29年度の予備実験については、研究代表者の当時の所属先プロジェクトの一環として実施した。研究途中で研究代表者が所属を変更し、運営主体との密な連携の困難や個人情報保護の観点から、プログラム運営を委任して研究対象を変更する必要が生じた。 一方で、自治体、教育機関、企業等に向けた地域連携に関するヒアリングおよび予備実験の成果発信を通して、産学民官の主体が子どもや若者の引きこもりに抱く問題意識や、まちづくりプログラムに対して持つ関心を新たに発見した。その結果、引きこもりと産学民官の主体同士が協働できる新たなプログラムの開発を進めることができている。すでに研究実施体制を構築した二事例では、29年度中に短期間のプレプログラムを実施した事例もあり、進捗は順調であるものの、まちづくりプログラムの完成度や、プログラムの関与主体(引きこもりの子どもや若者、自治体、教育機関、企業、地域住民等)に対する質的調査については、当初の研究計画に照らすと達成されていない。従って「遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
30年度は、二事例のまちづくりプログラムの開発に一年間を要することを見込んでいる。当該年度内に、29年度の遅れが解消される見込みが低いため、31年度の一年間について期間延長申請を予定している。 今後はプログラムの参与観察を通して、従来の学校教育やまちづくりでは協働が想定されていない、引きこもりと産学民官の主体同士が協働できるメカニズムを、質的な分析手法により明らかにする。特に、引きこもりの子どもや若者の発達障害や学習・生活上の困難に着目し、困難を保障し特性を活かすキャリア形成のあり方について、異分野の専門家と議論を重ねながら丹念に読み解いていく。また、各事例に関与する自治体、教育機関、企業、研究機関等の協力者にインタビューを行い、引きこもりの問題の本質を捉え、その解決に向けた学際研究の意義、効果、各々の役割、課題について明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度は研究の進捗に遅れが生じ、予備実験や新たなプログラムの開発準備のために支出した額が少なかったため、予定していた使用額の大部分を次年度以降に残すこととなった。30年度および延長申請予定の31年度には、質的調査にかかるアルバイトの人件費、専門家への協力謝金、研究場所までの国内旅費および研究発表のための国内・海外旅費、まちづくりプログラムの実施にかかる機器・ソフトウェア費、消耗品費の使用を予定している。30年4月より、研究分担者に林憲吾講師(東京大学生産技術研究所)を追加し、林講師は建築・都市史学の観点から本研究を分担する。
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