研究課題/領域番号 |
17K18636
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研究機関 | 関西福祉科学大学 |
研究代表者 |
橋川 喜美代 関西福祉科学大学, 教育学部, 教授 (20189468)
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研究分担者 |
木村 直子 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (80448349)
太田 顕子 関西女子短期大学, その他部局等, 准教授 (00636350)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 子ども理解 / 記録 / 園内研修 / 保育者の関わり |
研究実績の概要 |
採択が7月に決定されたことや研究分担者を新たに1名加えたこと等により、研究のスタートは若干遅れたが、三木市において採取した保育者の記録に見られる子ども理解の分析と、交流研修会の効果と課題に関する研究結果を日本保育学会において発表した。幼稚園教諭や民間保育園保育士たちに交流研修会の効果が見られたのに対し、公立保育所保育士には大きな効果が見られなかった。公立保育所保育士は記録をとることへの不安と文字化への苦手意識を2年間の研修においても拭いきれず、記録することの積み重ねや、全員参加の園内研修が保育所の実態に沿わないと考えていた。しかし、保育士の記録採取の問題は記録することの経験不足だけではないように思われる。保育士には、幼稚園教諭の援助方法や関わりを自分の援助方法のレパートリーに加えるかのように、学ぶ姿が見られる。双方の文化をつなぐ子ども理解のためには、双方の子ども理解を学び深め合う中で、より良いかかわり方を見出していくことが重要だと考えられる。 こうした研究成果を「幼稚園と保育所の文化をつなぐ幼児理解を求めて」と題して発表したところ、「幼稚園と保育所の文化の違いとはどのようなものか」「幼稚園教諭と保育士の幼児理解が異なる原因はどこにあるのか」「交流研修会は今後どうなるのか」等の質問が寄せられた。質問者との討議を踏まえ、①保育士らの記録採取への強い抵抗感の払拭、②幼稚園教諭の子ども理解を理想化する傾向の是正、を図るためにも幼稚園教諭・保育士双方の子ども理解を深める必要があることを再認識した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三木市で実施した交流研修会において蒐集した2年間の記録は「ラーニング・ストーリー」の学びの構えである5つの視点に基づいた保育の記録である。既にその効果として、子どもが熱中・挑戦する姿とそれを支援する保育者のかかわり方を省察させ、子どもへの共感的まなざしをもたらすことは明らかにしてきた。さらに、幼稚園教諭や民間保育園保育士たちが選抜研修で採取した保育記録を用いて行った園内研修では、①保育者の関わりと子どもの活動の一連の流れ、その過程における成果をつぶさに採取することの必要性、②保育者間の学び合いが子ども理解の共有と保育の質を保証する保育者の成長を生み出す契機となること、の2点を認識させた。 こうした成果が民間保育園で見られる一方で、公立保育所では対照的な結果をもたらした。「研究実績の概要」において述べたように、公立保育所保育士は記録を採ることへの不安や文字化への苦手意識が強く、全員参加の園内研修が保育所の実態に沿わないといった不満を抱いていた。記録や文字化への抵抗は採取された記録からも窺われ、それが子どもの心の読み取りよりも、幼稚園教諭のタイミングのよい関わりに目を奪われる結果となっている。こうした幼稚園教諭と保育所保育士による子どもの心の読み取りの違いが、認定こども園における文化・風土の醸成を妨げる要因になっているのではないかと考えられる。 以上の点から、今年度に予定していた三木市において採取した保育者の記録に見られる子ども理解の分析と、交流研修会の効果と課題の解明は順調に進められたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は幼稚園教諭ならびに民間保育園保育士たちの効果として見られた子ども理解の視点である「共感的まなざし」を具体化するために、佐伯胖の「ケアリングの三次元モデル」等を援用し分析尺度を構造化する。具体的には三次元モデルの下位概念である向善性、共感、かかわり、畏敬について項目化し暫定的指標を作成するとともに、以下の3つの方法を用いてその有効性の検証を行う。 まず、暫定的指標を用いたアンケート調査を実施する。調査対象者は兵庫県、徳島県等の公私立幼稚園・保育所・認定こども園の現職保育者とする。子ども理解の視点である「共感的まなざし」を指標化することによって、現職保育者の子ども理解の構造や公私立幼稚園・保育所・認定こども園による構造の違い等を明らかにする。 次に、三木市で蒐集した2年間の記録を暫定的指標により分析する。実際の記録を分析することで指標の出現性や有効性が検証できる。また分析から見えてくる、指標に含むべき新たな視点や必要な下位概念(項目)を模索する。 さらに、設定した暫定的指標を使用し、複数回記録を採っている保育者の記録を分析する。これにより研修や記録を重ねることが、保育者にどのような変容をもたらすのかを明らかにする。 次年度はこうした3つの研究結果から、子どもの学び、つまり生きる力を支える保育者に求められる「子ども理解の視点(子どもをどのように捉え、どのように見ていくのか)」の指標化を進めていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は佐伯胖の「ケアリングの三次元モデル」を援用し「共感的まなざし」の分析尺度を構造化するためのアンケート調査に使用する予定である。三木市において蒐集した記録の分析から明らかとなった保育者の「共感的まなざし」の暫定的指標を作成し、兵庫県、徳島県等の公私立幼稚園・保育所・認定こども園の現職保育者を対象者にし調査したいと考えている。これによって佐伯理論を基にした保育者に求められるケアリングの指標が現職保育者にとってどのように構造化できるのかが明らかになる。この調査の実施ならびに解析費用などを見積って予算を組んでいる。
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