研究課題/領域番号 |
17K18642
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
藤村 正司 広島大学, 高等教育研究開発センター, 教授 (40181391)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 財務諸表 / 国立大学 / 二極分化 / 固定効果モデル |
研究実績の概要 |
平成30年度は、法人化から第3期中期目標の現時点において、財政圧力下と間接統治下にある国立86大学の行動を検証した。具体的には,法人化期首の2006年から2015年までの「財務諸表」(損益計算書)を用いた法人単位の横断的・時系列的財務データのパネル分析(固定効果モデル)から国立大学の現状と課題を明らかにした。 主な分析結果は、以下の3点である。第1は収入面の推移から見て、病院収益を含む経常費収益合計は、医学系単科が1.4倍,旧7帝と総合医有が1.3倍まで増加し,12年間に病院を持たない大学類型間で二極化が進行していること、さらに基盤財源の減少が大学類型に関係なく、補助金収入増をもたらしていることである。 第2は支出面から見ても、二極化が進行していることである。二極化の一方の医学系単科,旧帝大,そして総合医有では病院収入を増やすためにマンパワーを必要とするから外部資金で人件費を賄っている。それもコメディカルを含む職員人件費の増加が著しい。逆に,人件費を節減したのが,人社系単科,教育系単科,そして総合医無である。これらの大学群では,人件費と教育・研究経費はトレード・オフの関係にある。 第3は、パネル分析の結果、支出の最大費目である人件費と業務費の関係を国立82大学全体として見れば,業務量に応じて人件費を増やし,前年度増減率で収支を合わせてきたことが明らかになった。ただし,それが可能なのは,病院を擁する3類型42大学である。残りの国立大学は,後任不補充等による人件費削減で収支を合わせていること。同時に,教職員人件費は基幹財源に依存するが、組織スラッグに余裕のない大学と外部資金を介して継承定員減と新たに生まれた短期プロジェクトに要する教職員を雇用できる大学で分化が進行している。いずれにせよ,法人化前に刷り込まれた「組織慣性」が,3期半ばでいっそう強化されたことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、大学資源配分の変化と教育・研究活動の関連を評価する分析枠組みを構築するために、公共政策論、組織社会学、そして大学財務を検討した。この枠組みに従って、ミクロ・メゾ・マクロの三つのレベルで分析を行った。ミクロレベルでは、国公私立大学に勤務する助教以上の教員4千人と学部長778人の回収を得て個票データベースを構築した。メゾレベルとして、国立大学の財務・研究担当理事と学部長への訪問調査を行い、基盤研究費・共通経費、個人研究費、外部資金の獲得状況や獲得の工夫について情報収集を行った。マクロレベルでは、法人化後から2015年まで国立86大学の財務諸表の横断的・時系列データベースを構築した。 結果として、ミクロレベルでは、後任不補充による教育負担と管理運営業務の増加による現場の疲弊を確認した。研究生産性の規定要因として科研費のみならず、基盤研究費が持続的な影響力を持つことから、わが国の研究力失速の理由に繋がることを実証した。 メゾレベルでは、大学本部と部局での共通経費の負担の問題点、後任不補充の対応として任期付き教員の採用、退職教員の活用、科目の削減など情報を得た。とりわけ、設置者別に見て国立大学教員の個人研究費減のダメージが最も大きく、一人当たりの研究費は10万円から30万円で全体の5割を占めること、10年間に研究費が5割以上減少した学部が全体の34%になること、しかもこの数値は「財務諸表」から算出した財務省の認識(650万円)と大きく異なることを確認した。ガバナンスについては、全学の意思決定に副学長(担当理事)の影響力が大きいと認識されていること、学部教授会の報告事項の時間が長くなり、審議事項が減少した事実を明らかにした。マクロレベルでは財務諸表を用いて、法人化の2期を通じて経常収入に占める補助金の割合が著しく増加し、科研費並みの傾斜配分が強くなっている事実を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の2019年度は、研究計画に従って、地方国立大学(島根大学、愛媛大学、新潟大学、大分大学、信州大学)を訪問調査し、基盤財源の減によるアウトソーシング(業務委託)についてヒアリングを行う。また、2017年12月に実施した学部長調査778人(国立191、公立75、私立502)と教員補充により教員データが4,000人を越えているので、引き続きアンケートの分析を継続する。とくに、基盤研究費の減少が研究生産性や教育活動に与えた影響を大学類型別に検証する。さらに、国立86大学の財務データ(時系列データ)について2016年度と2017年度を蓄積し、研究費比率と外部資金比率の関連の推移を個別大学・大学分類別に検証する。最後に、資源の効率的かつ効果的な配分のあり方をまとめた立体的な「報告書」の作成にあたる予定である。 なお、本研究テーマに関わって平成29年8月に文部科学省研究振興局から「国立大学法人及び大学共同利用機関法人が株式及び新株予約権を取得する場合の取扱いについて」が通知され、国立大学法人法第22条「業務の範囲」に認定ベンチャー・キャピタルへの出資と人的及び技術的援助が追加された。この法改正によって,指定国立大学法人は大学発ベンチャー・キャピタル創設による資金調達の可能性が広がった。本課題研究においても重要な法改正であるので、今後の動向を見守る必要性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度使用額が当初の使用計画よりも下回った理由は、2点ある。第1は、2018年度計画において国立大学法人「財務諸表データベース」、教員・学部長調査のデータベースの構築にあたって、業者委託せずにアルバイトで入力したために、「人件費・謝金」の当初配分額よりも下回ったことによる。第2は、アンケート調査と財務諸表のデータベース構築と分析に集中したため、当初予定していた大学訪問回数を限定せざるを得ず「旅費」が当初計画よりも下回った。最終年度の2019年度は、2018年度に予定していた大学の訪問調査を実施し、『科研報告書』の印刷経費を盛り込んでいる。
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