研究課題/領域番号 |
17K18643
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
島津 礼子 広島大学, 教育学研究科, 研究員 (00760034)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | ESD / アイヌ / 教材開発 / 持続可能性 / 先住民 / 口承文芸 / SDGs |
研究実績の概要 |
① ESDの理論的系譜を踏まえながら、改定前の学習指導要領ならびに新学習指導要領におけるESDの位置付けと、実践に関する今日的課題、傾向、近年周知されつつあるSDGsの概念との関連などを整理した。これらを基盤として、ESDと結びつく先住民の世界観、自然観、知識とはどのような点か、文献調査と北海道内の現地調査(主に胆振地方・日高地方)を行い、考察した。この成果については、論文化するとともに学会において発表する予定である。 ② 北海道ならびに三重県内において、アイヌの言語や文化を取り入れた教材や授業実践の実態を調査し、傾向をまとめるとともに事例を収集した。三重県松阪市は、幕末の蝦夷地の調査を行い当時のアイヌ文化を詳細に記録して書物にまとめた松浦武四郎の出生地であることから、アイヌ文化を学ぶ副読本が作られているなど、北海道外の地域でもアイヌ文化学習を行っている学校があるものの、アイヌの言語や文化について体系的かつ連続的に教科に組み入れている学校は非常に限られていることが明らかになった。 ③ アイヌがたどってきた歴史や彼らに対する教育、アイヌの有する自然や動植物に対する知識などについて、文献を主として調査し、これを裏付け補足するためにアイヌ関係者へインタビューを行った。とりわけアイヌの口承文芸である、ウェペケレ(昔話)、ユカラ(英雄叙事詩)、カムイユカラ(神謡)に焦点を当て、物語に表れているESDに通底する自然観について考察し、論文としてまとめた。 ④ 本研究の主目的は、アイヌの知識と自然観を取り入れたESD教材の開発と実践、評価であるが、北海道内においてアイヌ文化学習を行っている講師と北開道外の学校と連携するなどして、教材開発と授業実践の準備に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アイヌ文化振興研究推進機構などがこれまで行った、アイヌ文化学習に関する実態調査の分析を優先したために、本研究による独自の調査が遅れているものの、先行研究の結果を踏まえたアイヌ関係者、学校関係者、保育関係者を対象とした質問紙調査、インタビュー調査は2018年度に行えるように準備している。現地調査における教材や授業実践の事例収集を含めた研究計画は、ほぼ順調に進行している。これまで得た教材や知見を基盤として、アイヌ文化学習を北海道外の学校において試行的に行うとともに、教員と共同してアイヌの知識と自然観を取り入れた独自のESD教材を開発、実践、評価できるよう、連携と準備を進めている。これまでの調査において、アイヌに対する知識や認識、アイヌ文化学習に関する関心は、北海道外のみならず北海道においても低いことが明らかになってきている。そのため、児童・生徒が単にアイヌの文化や歴史的背景を学ぶだけでなく、アイヌの文化とESDやSDGsを結び付け多角的に考えることで、論理的思考力や批判的思考力を身に付け、多様性や共生の意識の芽生えを期待できる教材を作成する必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、北海道でアイヌ文化学習を行っている講師を北海道外の学校に招聘し、試行的に授業を行ってもらう。授業は小学校5年生社会科において行う予定である。この授業を分析・研究し、教員と共同しながらアイヌの知識、自然観とESDの概念が結びついた教材の開発を行う。 第二に、ニュージーランドから研究協力者を招聘し、北海道で行われているアイヌ文化学習の授業を見学してもらう。また、研究代表者(可能であれば学校の教員も同行)がニュージーランドにおいて、マオリの言語・文化学習の授業見学を行う。先住民マオリの言語・文化を教育課程に取り入れているニュージーランドとの比較において、研究協力者、両国の教員らを交えて意見交換を行い、環境面のみならず多様性や多文化共生の観点も取り入れたESDの教材開発へと発展させる。同時に、先住民の知識や自然観を取り入れたESDの教材が、児童・生徒の論理的思考力、批判的思考力、コミュニケーション能力などを培うコンテンツになり得るか検討する。 第三に、アイヌ関係者、学校関係者、保育関係者を対象とした質問紙調査、インタビュー調査を行い、アイヌの文化や言語、知識を教科に取り入れることに対する意識や課題について明らかにする。以上の研究の成果は論文化して投稿するとともに、日本ESD学会などの国内主要学会において発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
① 2017年度は、北海道における調査期間を当初予定より短縮せざるを得ない事態が生じた。② 学会参加の予定を東京における学会2回としていたが、広島で開催された国際学会に参加したために旅費の使用が抑えられた。③ 2017年度に予定していた質問紙調査を、2018年度に行うこととした。上記の理由により、次年度使用額が生じた。今後、①、②については、当初計画にはなかった北海道からアイヌ文化学習の講師を招聘し、授業を行ってもらう際の旅費として用いる予定である。③については、2018年度質問紙調査を実施するために用いる。
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