研究課題/領域番号 |
17K18643
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
島津 礼子 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 研究員 (00760034)
|
研究分担者 |
七木田 敦 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 教授 (60252821)
|
研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2022-03-31
|
キーワード | アイヌ / 先住民 / ESD / SDGs / 他者性 / 社会科副読本 / ウィトゲンシュタイン / 持続可能性 |
研究実績の概要 |
2020年度は新型コロナウイルスの蔓延に伴い研究期間を延長した年度であり,過去3年間の調査と研究について理論と実践の両面から総括を行った。理論面では,今日国内外において国家間や民族間の軋轢や多様性を排除する動きが顕著であることから,人種,民族,宗教,信条,性別などから生じる違いを「他者性」と定義し,個人が「他者性」と接することにより獲得する学びについて,ウィトゲンシュタインの「展望」の概念を援用して考察した。 実践面では,北海道の各自治体に置かれた教育委員会を対象として行った調査から,道内の公立小学校におけるアイヌに関連する学習や取り組みの実態,教育方法,課題について明らかにした。また,道内の各自治体が作成している小学校社会科副読本内のアイヌの歴史や文化を説明する記述について,「他者性」の観点から考察した。その結果,アイヌに関連する実践について蓄積がある北海道内においても,依然として教育方法や他の概念との関連付けにおいて模索されていることが明らかになった。小学校社会科副読本のアイヌに関する記述は,「主体」としての和人と「他者」としてのアイヌという構図があることが明らかになった。しかしながら,いくつかの社会科副読本にはアイヌが「主体」として語る口承文芸や民話,伝説を元にした物語も記されており,これらの物語はアイヌの世界観を現出する効果を持つと考えられた。学習の中で子どもたちがアイヌの歴史や文化,世界観が有する「他者性」に接することは,自己の存在やアイデンティティ,価値観を揺さぶられ,問い直す契機でもある。このような経験は子どもたちにとって,貴重な成長のステップとなり得ることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は,アイヌの知識や自然観を学校教育に取り入れることにより,子どもたちの先住民への理解を促すとともに,その意識と行動を変革することで持続可能な社会の構築を目指すものである。研究の過程ではアイヌ関係者から開発した授業単元について意見を伺い,その成果と課題の検証することが不可欠であった。さらに,海外で実施されている先住民に関する教育についても参照し,比較を検討していた。しかし,新型コロナウイルスの影響により社会は大きく変わり,国内外への渡航は大幅に制限された。アイヌ関係者や北海道内の教育者との面会が叶わず,本研究が遅れる一因となった。同時に,世界規模で蔓延した感染症は,先住民を取り巻く状況や民族間の分断にも大きく影響したと思われることから,本研究に関わる今日的な課題として調査の射程を広げたことも研究の遅れに繋がった。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度は,引き続き理論と実践の両面から本研究の総括を行うとともに,開発した授業単元についてアイヌ関係者から意見と評価を受け,その成果と課題を検証することを目指す。検証は昨年度と同様に,以下の2点から行う。アイヌの知識、自然観を学ぶ授業を受けることにより児童・生徒は,1) アイヌならびに先住民に対する認識を深めるとともに,論理的思考,批判的思考を駆使して,直面する社会的課題と結びつけることができているか, 2)アイヌをはじめとする先住民の歴史と文化を尊重し継承することが,多様性を包含した持続可能な社会を構築し継続するための手立てとなり得ることを理解できているか。以上の研究の成果を,論文や学会発表により公開する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究の成果検証のための調査について,新型コロナウィルスの蔓延による移動制限・自粛により実施が叶わなかった。2021年度に改めて調査を実施し,最終結果をまとめる。
|