本研究の目的は、全ての民族のアイデンティティが尊重される持続可能な社会を構築するために、わが国の先住民族であるアイヌに関連する学習や取り組みを調査した上で、新たにアイヌを学ぶ授業を開発し、その成果と課題を明らかにすることである。2021年度は、本研究課題の最終年度であったことから、研究の総括と成果発表を行った。また、2020年に北海道白老町に開館したアイヌ国立博物館において、学校を対象として提供されているプログラムについて調査を行った。 アイヌについて学ぶ授業については、以下の課題が明らかになった。第一に、現状の教育課程ではアイヌについて学ぶための十分な時間が確保しづらく、子どもたちのアイヌに対する知識や理解が、表面的で狭い解釈に留まる恐れがある。第二に、アイヌが差別されていた歴史に焦点を当てることは、アイヌを理解するために不可欠である。その上で、子どもたちが、「支援の対象としてのアイヌ」という認識を脱するための学習が必要であるという点である。 社会においてもアイヌの歴史や文化の認知は不十分であり、無自覚にアイヌの人々の尊厳を傷つける事態も起きている。アイヌの背景を持ちながらも、それを明かさない人々の存在と痛みを知ることも、忘れてはならない視点である。これらの問題に対し、学校教育が果たす役割が大きいことは言うまでもない。しかし、とりわけ北海道以外の地域ではアイヌについての情報が少ない中で、教員が授業を行うにあたって差別や人権といった問題にどこまで踏み込めばよいか、といった課題に直面する可能性もある。これらの課題を克服するためには、授業で使うためのアイヌに関する資料の拡充、学校や学年全体のカリキュラムとして取り組むことの検討、アイヌの歴史を過去から現在へとつながるスパンでとらえる授業の試みとともに、アイヌを学ぶ取り組みをアイヌの人々と共に考えるという姿勢も必要だと結論付けた。
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