本研究の目的は、写真データを介して研究者と実践者が対話し相互に解釈することを通して、子どもの経験を描き出すための、新たな質的研究方法論としてフォト・エスノグラフィーを開発し、その可能性と課題を検討することである。 [令和元年度の研究実績](1)広島県内の5園をフィールドとし、子どもの経験を記述するためのフォト・ストーリーを作成した。(2)台湾、香港、インドネシアの幼児教育施設をフィールドとし、同様のフォト・ストーリーを作成した。その際、日本ではあまり見ないような子どもの活動や保育施設の物的環境に焦点を当てた。(3)作成したフォト・ストーリーを用いて実践者との対話を試みたところ、写真に潜在する社会的・文化的習慣や慣習を浮き彫りにするような保育者の実践知が促されることが分かった。また、写真の場合、動的な子どもの活動の様子よりも、保育施設の物的環境など、固定的で安定的なものの方が保育者の実践知が促されることが明らかになった。以上を踏まえ、フォト・エスノグラフィーの方法論について検討した。 [期間全体の研究実績]写真の特質として、「静的で安定的な状況であること」「繰り返し発生する状況であること」「一枚の画で完結していること」「一瞬だけを切り取って、その瞬間にストーリーをもたせることができること」「見る側の想像を膨らむこと」「見る側のインスピレーションが働くこと」「動画よりも表現が抽象的であること」が明らかになった。以上から写真は、静的で安定的な状況や繰り返し発生する状況の記録を収めるのに適しているとともに、素地となる保育環境の意味や働きに関する保育者の実践的知識を捉えられることが明らかにされた。また、写真は、研究者と実践者の双方にとって、保育の営みを記録する道具であるとともに、両者が相互に社会的・文化的習慣や慣習を省察するツールとして機能することが明らかにされた。
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