研究課題/領域番号 |
17K18648
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
小柴 満美子 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (90415571)
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研究分担者 |
山内 秀雄 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (10250226)
國方 徹也 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (50195468)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 胎児期脳神経発達 / 行動・生理長期計測 / 遺伝と環境の相互作用 / 発達齢依存性 / 脳MRI / 照明・環境・温熱 / 社会 / 音声 |
研究実績の概要 |
少子化、母親が35歳以下の出産が減少する現代日本において、低出生体重児など早期に出生する病態新生児の割合は依然として高い。複雑化する社会のなかで、妊婦と胎児がさらされるストレスへの脆弱性が示唆されると共に、児が早期出生後に受けるストレスは、出生齢に依存して異なる影響が推測される。正期産齢に達するまでに、胎児期に培われるべき神経系の発生・発達は、両親に与えられた遺伝子プログラムを基盤としながら周囲環境から受ける感覚信号の入力や栄養によって大きな影響を受ける可能性が高いが、そのメカニズムは十分に知られていない。 そこで、新生児集中治療室(NICU)の保育器内に入院する早産新生児について、倫理審議承認内容を遵守し保護者に同意を得た患児を対象に、照明、音響、温熱や社会環境の影響を受け変動する生理や行動の要素の探索、および、非接触でストレスフリーな計測システムの試作改良と、発達状態を定量可視化することができる技術の探索を試みた。1-2週間の連続追跡記録、および、NICU退院の直前に発達状態の確認診断を行うために、中枢神経作動薬のリスクを回避することができる安全な覚醒管理法開発・改良を伴い、脳機能MRイメージデータの取得を行った。 また、同じく退院前の発達状態を行動神経学的に診断する方法についても試験プログラムの探索を行い、データを取得したので分析・検証を試みている。 当年度では纏めた一部の知見を国際的に発表を開始し諸国同領域研究者とディスカッションおよび情報収集により分析方向の検証を進めるために、国際ストレス行動学会アジア地域会議を主催しプロシーディングを発行すると共に、同会議発表後にフィードバックを重ね纏めた他の複数グループを含む査読付論文報告オープンアクセス誌発刊を立ち上げた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新生児集中治療室において計測を行うこと自体が困難であること、さらに、多種類の異なる指標のビッグデータを取得し分析に処することが極めて困難なため、より時間を要すことが予測されていたが、若手研究者である陶テイ博士、櫻井隼人助教の各担当分の精力的な研究推進と、青木孝子博士の支援、埼玉医科大学新生児科、放射線科、小児科の臨床および基礎従事者全員の協力体制、患児保護者の協力、山口大学学生の参加により、計測およびデータ収集が順調に進んだ。国際ストレス行動学会アジア地域会議の主催を順調に終え、また、複数の研究グループの優れた研究報告と共に、我々自身の研究内容を、厳格な査読過程システムを施行した結果、闊達な先端的検討結果と議論を促す可能性のある有益なプラットフォーム形成を行うことができた。 新生児が生後に受けた環境からの影響が、どの様にその後の発達に影響を与えるかを分析する技術開発も重要でることが研究発表と国内外研究者とのディスカッションで重要であることを捉え、その分析技術開発を身体運動定量データと定性観察との照合により進めている。
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今後の研究の推進方策 |
当該の新生児集中治療室の対象となった患児は、病態が多様である一方、少なくとも1週間以上継続して保育器内入院する期間で得られる臨床情報・行動・生理・気象や音・光・温熱環境変動の多因子ビッグデータが継続的に得られたことから、各児の履歴と信号処理探索を深め、多変量相関解析に基づく可視化法開発を進める。動脈血中酸素飽和度や脈拍数、および行動との時系列分析において、病態と回復の複雑な変動の定量的可視化を提起した国際査読付のオープンアクセス誌公開発信を行ったので、フィードバックを纏め、高次機能発達診断技術、および、発達不全介入回復術システムの開発を行う。 中枢神経系発達診断のひとつの最高位ツールであるMRイメージング法で得られるデータとの相関解析を加え検証を行い論文投稿を予定する。 また、その後の認知・情動機能の神経発達診断を叶える技術開発が重要であることを国内外研究者から示唆を受け、幼児を対象とする同開発を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、ハイリスク新生児脳へのストレス可視化法を開発し、外界に動機的に適応する児の機能形成を導く、音楽・光・温熱などのクロスモダル空間療法を開発目標とします。 行動自動解析や新脳画像診断技術の開発試作検証により、早産児が正期産児と異なる脳や機能発達を示す結果、行動生理への影響の予測に寄与する示唆など、予定以上の結果を得たため、より多くの論文にトピック毎に再編し、各追加試験や分析を要する理由です。同再編に当たり、当初予定していた物品費、旅費、その他の経費を所属先の研究経費で補い本助成での利用額を軽減することができたため、その残額を分析に係わる人件費などを対象として利用する計画です。
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