研究課題/領域番号 |
17K18650
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
蒲生 啓司 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 教授 (90204817)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 発達障害 / 精密質量分析 / アミノ酸 / 低分子極性物質 / 発達障害モデルマウス / メタボローム解析 / 唾液アミラーゼ / ストレス物質 |
研究実績の概要 |
本研究は,LC/MS法によるメタボローム解析に基づいて,発達障害とりわけ自閉症スペクトラム障害(ASD)を生化学的(先天的・内因的)観点と,生活環境中の化学物質や食物・栄養学的(後天的・外因的)観点から解明していく研究であり,唾液試料を用いるメタボローム解析を導入することで,発達障害を客観的物質量の変化として捉えることの可能性を追究している。すなわち,定型発達群の体内に普遍的に存在する物質量と,ASD群に存在する或いはASD群が獲得した特定の物質量との「差異」に着目し,それらの生体内物質量の変化・差異を明らかにすることによって,ASDの診断・経年経過等を客観的に判断することが可能となる。これまで進めてきたASD診断マーカーと考えられる先天的・内因的生体内物質,特に低分子極性物質の差異解析によってASDの早期診断・発見に貢献することと共に,新たにASD発症に関わる外的要因,即ち生活と関わる環境中の化学物質の観点から,ASDの後天的要因の解明をめざすことを目的としている。また,発達障害の発症要因の解明に関わって,研究協力者より,発達障害モデルマウスであるセリンプロテアーゼ(motopsin)欠損ノックアウト(KO)マウスの血清を供与いただき,KOマウスと対照としての野生型(WT)マウスを用いて,それらの血清中アミノ酸を中心とした化学成分の「差異」がメタボローム解析的に見出されるかどうかの評価を行った。それによって,KOマウスに生化学的差異が観察されるのかどうか,即ち,アミノ酸を中心とした化学成分の詳細な定量結果から発達障害の診断についての知見を得るべく研究を行った。一方,唾液試料と生体内情報との関連においてストレス物質(ストレスマーカー)に注目し,簡易測定が可能な唾液アミラーゼを追跡することで,発達障害者の抱えるストレス変動をモニターし得るのかどうかの基礎データを収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究協力者から提供を受けるマウスの生育状況と血清のサンプリングの関係で,29年度から発達障害モデルマウスとして研究されてきたセリンプロテアーゼ(motopsin)が欠損したノックアウト(KO)マウスの血清分析について実施してきた。その研究成果と課題を受けて,30年度は引続き研究協力者との連携の下で血清試料の提供を受けながら,発達障害モデルマウスの血清分析を中心に研究を進めてきた。即ち,KOマウスを用いてそれらの血清成分の比較において,その対照となる野生型(=定型発達型)(WT)マウスを分析の対象として,血清中のアミノ酸を中心とした低分子極性物質の詳細な定量を行うことで,KOマウスの生体情報から発達障害の診断について知見を得る研究を行い,改めて血清成分の差異がメタボローム解析的に見出されるかどうかの評価を行った。 一方,ヒトの唾液試料のメタボローム解析に基づく発達障害(=知的障害)の解明については,これまでの研究成果から,繰返し再現性の問題が生じたため、その原因としてアミノ酸成分等を遊離型として検出する上では,感度の不足や分離上の問題があったため,LC/MS法に適した検出感度を向上させて分離を改善する誘導体化法を検討した。 発達障害の発症要因を,環境変化とストレスの観点から考える。化学物質や運動負荷等の環境変化による刺激は,ストレスとして様々な影響を及ぼすことが知られている。例えば運動負荷による唾液中のストレス応答物質の変化は、運動強度に依存するのではなく,むしろ運動前後の精神状態に影響されることが報告されている。30年度は,唾液情報に反映される個人の精神状態の変化に着目した上で,精神状態の変化をもたらす運動の場で唾液アミラーゼを測定し,その変化を追跡することで唾液アミラーゼがストレス変化を反映するのかを追究した。 以上の理由によりおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2年間の研究成果と課題を改めて見直し,特に30年度明らかになった計測上の基本的な問題を改めて31年度に引継ぎ,これまでのLC/MS法による低分子極性物質の定量から得られた成果と,機器的及び定量手法上の課題,即ちESIイオン化法によるLC/MS機器の装置間の比較と分離カラムの選択,特にアミノ酸を対象とした遊離型の直接分析法と誘導体化による間接分析法の比較,を改めて設定し,障害者唾液試料及び発達障害モデルマウス血清試料について,信頼し得る分析法の提案を行う。 また31年度は,当初の研究計画に基づいて,自閉症等脳の障害の問題を,生活環境学および食環境学的観点から後天的な問題としてその発症の要因を追究する。環境要因に注目した研究も行われていることから,特に環境中の化学物質の存在(=室内環境中の濃度)が,特異的に脳の生理活動に影響を与え,結果的に脳の障害を引き起こしているとするならば,生体物質の変動として血中濃度の差異となって現れる可能性が高くなる。昨今の室内外の環境物質で問題視されてきたホルムアルデヒドに注目して,その定量法を確立して室内環境濃度を明らかにすると共に,その残留性・吸着性についての知見を得ることとする。 本研究の最終年度として,知的障害の特別支援学校就学者への発達心理学的及び応用行動学的教育支援の在り方と共に,自閉症並びに知的障害研究の教育研究環境を地域と共に構築していくために,生化学的及び分析化学的アプローチとして何が求められ,どのような可能性があるのかについて見解を明らかにしたいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
30年度に使用することになっていた経費を一部削減できたこと、それを31年度の消耗品及び純水の購入に充当したいと考えたため、次年度使用額として当該助成金が生じた。
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