研究課題/領域番号 |
17K18663
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研究機関 | 札幌大学 |
研究代表者 |
荒木 奈美 札幌大学, 地域共創学群, 准教授 (20615182)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | ナラティヴ的探究 / 表現アート / 開かれた学び合い / アイデンティティ / アクティブ・インタビュー / 質的研究 / 大学教育 |
研究実績の概要 |
2018年度前半は学生のインタビューに集中し、対象学生の中の数名から5名を選び対話を繰り返しました。その中で見えてきたことは、学生たちは自分の過去のトラウマ体験や自分自身でも受け入れがたいために記憶の彼方に封印してしまったことが「足かせ」となり、現在の等身大の自分自身をなかなか受け入れられないということと、その部分を私自身がどう聞き取るかという大きな課題でした。学生の話を個人的な評価を与えずに聞き続けることで、一人ひとりの学生の抱える問題がおぼろげながら見えてきたものの、そのことを学生にどう伝えるか、一人の研究者としてどのような視点を提供するかというところで自分自身の知識があまりに足りないということにはっきりと気づかされる体験でもありました。 その課題を少しでもクリアにするために、後半は表現アートセラピーの講座を受け、私自身がその対応の仕方を学びに行くことになりました。言葉にしがたい思いを芸術表現や象徴的な言葉を探すことを通して形にし「自分は何者か」を知るということが、私が目の当たりにした学生たちの求めている一つの「答え」となりうるものであることを発見しました。私自身が学んできた表現アートセラビーの方法をすぐに取り入れ、様々な角度から学生の言葉にしがたい思いに働きかけるということをしたところ、間違いなく学生たちが私に話してくれる内容は変わって行きました。しかしながら何よりも変化があったのは私自身の学生への接し方だと思います。学生のてらいのない思いや言葉を引き出すために何より必要なのは、それを聞き取る教師の側がまず学生にありのままの姿で接し、「対話的に」関わることだということを私自身が表現アートセラピーの方法論を得て実感として学ぶことができました。その成果は所属機関の研究紀要に成果として書き残しました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は「ノンエリート大学」に通う学生が大学の中で生きづらそうにしている姿を目の当たりにして、その原因は何なのか、教師として、研究者として何か手を差し伸べられることはないのかという思い一つで始めた研究でしたが、その根本に触れるにつけ、その根本には学生たちの育ってきた環境やその中で知らぬ間にこしらえてしまった自分自身の「箱」のような自意識が足かせになっていて、その問題を解きほぐすためには思った以上に時間がかかるということに気づいたことがきっかけとなりました。今は、学生たちの言葉にしがたい思いをどういう形で引き出せるかということころに研究の中心が動いています。その結果として、「自分が何者かを知る」ための一つの方法として表現アートセラピーの大学教育での応用可能性を探るに至っています。
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今後の研究の推進方策 |
学生たちの言葉にしがたい思いを引き出すためのツールとして「表現アートセラピー」に有効性を見出し、さらに深く学ぶ計画です。また繰り返しの学生との対話の中で、学生たちの気づきは、教師によるよりも学生たちが学生同士で気づきあうということの方が深い内容になるのではないかという思いにも至っており、オープンダイアローグという関わり合いの方法にも関心を持っています。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究テーマに沿って学生との対話を繰り返す中で見えてきた「言葉にならない思いをどう引き出すか」という課題の中で出会った表現アートセラピーの考え方を次年度も継続して自分自身のものとして体得したいと考えている。当該研究を始めた当初は気づけなかった視点であり、そのために費目の変更を余儀なくされたが、次年度に向けても同様に、ワークショップの参加、学んできたことを学生たちに伝えていく表現活動など、表現アートセラピーの知見を得るための活動を中心に行っていく。今年度繰越分は、そのための費用に充てたい。
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