研究課題/領域番号 |
17K18673
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
石川 幹人 明治大学, 情報コミュニケーション学部, 専任教授 (20298045)
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研究分担者 |
菊池 聡 信州大学, 学術研究院人文科学系, 教授 (30262679)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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キーワード | 科学教育 / 科学リテラシー / 疑似科学 / 二重過程理論 |
研究実績の概要 |
「批判的思考を向上させる消費者リテラシー教育のための科学哲学と認知心理学の学際研究」は、昨今問題が大きくなっている疑似科学商法に対抗する消費者リテラシーを市民に形成させることを目的にしている。その目的達成のため、一般市民でも科学と科学でないものを見分けられる科学性評定法の確立、一般市民が発動しやすい直感的思考を抑制して科学性評定を駆使できる批判的思考を促進する方法の確立を目指している。初年度の研究では、これまで培ってきた科学哲学および認知心理学の知見を応用し、この問題に対する消費者リテラシー教育を実現する教材サイトを構築する準備を進めてきた。 具体的には、これまで科学哲学の分野で語られてきた「科学性を評定する基準」を、一般市民が理解できるような身近な事例に落とし込んで教育を行う「授業書」を開発している。その際には、認知心理学で定評のある二重過程理論を応用して、直感的に陥りやすい問題を理性で回避する手順を埋め込み、科学性の理解の促進を図っている。また同時に、その授業書で使用する専門用語を理解する教材や、疑似科学広告に当てはめて科学性の重要さを理解する教材を開発して、消費者教育用教材サイトとして充実させている。 本教材サイトは当初の計画通り準備が整っており、夏前の試験公開を経て、秋には本格公開をする予定である。また授業書の作成の意義について、消費者教育学会で発表して専門家の批判を受け、次年度の教材評価につなげる計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで科学哲学の分野で語られてきた「科学性を評定する基準」の10項目を4グループに分けて、一般市民が理解できるような身近な事例に落とし込んで教育を行う「授業書」を開発している。その半分について見通しが立ち草稿が出来上がった段階である。また、その授業書で出現する専門用語をそれぞれ理解させる教材を、これまでの疑似科学用語事典を解説風に改める形で作成した。さらに、具体的な疑似科学広告に当てはめて認知の誤りを認識させ、科学性理解の重要さを知る教材を開発中である。これらは消費者教育用教材サイトとして充実させており、当初の計画通り8割方の準備が整っている。 一方、認知心理学で定評のある二重過程理論について、この疑似科学問題への応用研究を別途進めている。疑似科学への肯定的態度を、二重過程理論にける経験に基盤をおいた直感的処理がもたらす素朴概念の一種ととらえ、その特質を明らかにする質問紙調査を、青少年を対象として実施した。その一部の結果を理科教育誌にて報告している。二重過程理論に従えば、直感的に陥りやすい問題を理性で認識し、それを回避する手順を理性的に考える方向性の妥当さがあらわになる。上記の「授業書」にはこうした工夫を埋め込むことができ、科学性理解の促進につながる見込みがある。たとえば、「後付けによる説明」は説明ができたことによる達成感があり、直感的によいものと思われがちだが、科学ではそれは「思い込みにつながるよくないもの」とされているので、他の説明を理性的に考えるべきだ、と教示できる。
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今後の研究の推進方策 |
本教材サイトは当初の計画通り準備が整っており、夏前の試験公開を経て、秋には本格公開をする予定である。このサイトはスマホでも閲覧が容易な、科学コミュニケーションプラットフォーム上で公開されるので、消費者をはじめとした一般市民に有益な情報提供ができるものと期待される。加えて、サイト上でも閲覧情報の収集やアンケート調査ができるので、研究の観点からも大いに活用できる。 こうした環境のもと、授業書を含めた本教材サイトの教育効果について、消費者団体等の協力を得ながら、評価を行う。また授業書単独では、その作成の意義について消費者教育学会等で発表して専門家の批判を受けるとともに、教育現場での教材評価を通して、内容の改善を図っていく計画である。とくにランダム化比較試験などの科学哲学上の重要用語の理解については、かなり難解であるので、理解の段階を細分化して教育する工夫が必要と認識している。 一方、認知心理学で定評のある二重過程理論については、すでに授業者への反映を図っているが、次の展開を模索している。疑似科学的商品・サービスの主張を受け入れる心理的基盤を構成する諸要因についてはさらに複雑な背景がありそうである。それを別途、二重過程理論の観点からとらえる質問紙調査を継続的に実施していく。その成果については心理学系学会において報告するとともに、この知見を消費者教育の教材にフィードバックして、その有効性に関する検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究費の支給決定が予定より遅かったので、わずかではあるが、年度内に使用しきれない繰り越し額が発生した。その分は次年度の研究に使用できる見込みである。
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