本年度は、次のテーマを重点的に推進した。 1.学習システムの活用と評価:大学授業の日本手話パートにおいて構築したWeb指文字学習システムを活用した。くわえて、質問紙を通して、学習システムに対する使用に関する評価を行った。学習の総合的、個別的な観点(定期的学習への促し、学習動機の維持など)で、いずれも8割以上良好な結果が得られている。一方で、さまざまな動きが含まれる指文字認識に関する技術的な課題はあらためて、またスマートフォンで利用ができない手軽な環境への拡張が示唆された。 2.初学者の指文字学習履歴データの蓄積:2の活動で、13名の指文字の読取・表出データを得た。 最後に、全期間を通した記述を与える。手話の「指文字」を対象とした3領域、第二言語習得(SLA)・コンピュータビジョン(CV)・自然言語処理(NLP)での各種知見に基づき、「通じること」を念頭に指文字学習システムを設計、組んだ。指文字の手本に一致する、というだけではなく、CVでずれをパラメタ化し、学習者(人)にわかりやすく提示することで誘導を図る。同時に、誤りやずれの傾向をデータとして蓄積し、それが人の手指に関する意識、欠落といったSLA下での認知的傾向として説明した。音声言語におけるリエゾンのような現象を、指文字の表出時に意図的、効率的に観察するためのデータ生成に、日本語コーパスなどNLPの言語的知識を活用した。 学習システムには、最終年度にスマートフォンや、スマートフォンからアクセス可能な実装も、学術的には本質的ではないものの重要であることが感取された。また、手話の学習目的下で、指文字は動機づけが高い学習者にとっては、そこまで習得が難しいものではなく、その過程も差がつきにくい。指文字は習得研究の対象というよりは、手指表現の表出や読取の際の認知的錯誤を検討していく観点として有効であることも示唆された。
|