本研究は,モーションキャプチャシステムを用いた紙漉き時の動作計測と,アイマークレコーダを用いた視線移動計測を組み合わせ,職人の持つ暗黙知的技能を定量化することを目的として実施した. 計測実験は,出雲民芸紙の工房にて実施した.紙漉き歴40年以上の職人1名,紙漉き歴2年程度の弟子1名を対象に大判(1000mm×620mm)の紙漉き時における視線移動と紙漉きの道具である簀桁(すけた)の動作計測をそれぞれ6枚分行った.それぞれのデータ解析結果をもとに,完成した6枚の和紙の評価(重さ,均一さ)を行った結果,職人が平均27.16g,標準偏差0.48g,弟子が平均28.42g,標準偏差1.62gとなり,職人のばらつきが弟子に比べ小さいことが確認できた.また,厚みの均一さについても同様の結果が得られた.完成した和紙の品質と動作の相関関係を調査し,職人の動作に高い相関がみられることを確認した.特に簀桁を振る際,角度変化の最大値および振り幅が弟子と比較すると一定に保たれていることが確認された.また,視線移動に関しては,遠近両用眼鏡の影響で一部正しくデータ計測できなかった部分も見られたが,両者の視線移動に大きな違いは見られなかった.紙漉き職人および弟子の1名ずつのデータしか取得できていないため,今後追加の計測・解析が必要である.さらに,簀桁にKinect用のカラーマーカを取り付けることで,簀桁の動作をリアルタイムで表示する装置も作成し,防水型9軸モーションセンサでの計測値と遜色なく使用できることを確認した.今後,開発した装置を用いて技能訓練を実施した際の効果についても検証が必要である.
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