本研究では、録音して聞く「自分の声」に違和感を覚える人間の知覚特性に着目した。骨伝導を介して聞く自分の声を「own voice」と定義し、そのown voiceを再現するフィルタを作成することを目指した。実験では、被験者本人の音声を録音し、その録音にローパスやバンドパス等のフィルタ処理を行った。さらに、被験者本人がown voiceを再現するために様々にパラメタを調整することにより、より詳細なown voiceの再現を目指した。実験の結果、own voiceとされる音声の特徴は被験者ごとに大きく異なることが明らかになった。これらの結果をまとめた論文が2018年度前半にPlosOne誌に掲載された。本年度は、このown voiceのフィルタ特徴を、MRI室の環境で作成し、さまざまなフィルタ処理を施した音声刺激を被験者が聞いているときの脳活動を測定した。まず、MRI室内でノイズキャンセリングヘッドホンを使用する場合、防音室で測定した知覚判断とはある程度の相関はあるが、必ずしも一致しないことを確認した。その上で、MRI室内で、被験者に自分の声らしさの知覚判断をさせる実験方法を確立した。実験の結果、もっとも自分の声らしいと知覚される音声を聞いているときは、そうでない時に比べて、聴覚皮質の活動が低減することが明らかになった。この結果は、自分の発声時には自分の声を抑制するという先行研究の知見と合致するものである。脳機能計測の結果は、国際誌に投稿準備中である。
|