研究課題/領域番号 |
17K18696
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
永岑 光恵 東京工業大学, リベラルアーツ研究教育院, 准教授 (80392455)
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研究分担者 |
曽雌 崇弘 大阪大学, 生命機能研究科, 招へい研究員 (00381434)
竹内 あい 立命館大学, 経済学部, 准教授 (10453979)
福田 恵美子 東京工業大学, 工学院, 准教授 (50546059)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 意思決定 / 時間的切迫 / 心理的不安 / リスク選択 / 自律神経反応 / 独裁者ゲーム / 利他性 / 貢献度評価 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、振り込め詐欺やその他の商業詐欺の被害者となる可能性の高い中高年者の保護や予防対策を実験心理学および実験経済学の融合的アプローチにより総合的に解明し、詐欺防止策を提言することである。本年度は3年目として、実験心理学グループでは、前年度に実施した若年者と高年者を対象とした実験から得られたデータの解析を進め、実験経済学グループでは、前年度に設計した実験を実施した。 【心理学グループ】「アイオワ・ギャンブリング課題」の意思決定過程における学習の効果が高年者においては認められず、事前情報の提示や学習による逐次的なリスク選択の回避が高年者では困難であることが示唆された。次に、本年度は、自律神経反応の「皮膚電位反応(SCR)」を用い、意思決定時における不安の逐次的変化の数量化を若年者のデータを用いて行った。事前に顕著なネガティブイベント発生時のSCR関数を作り、それを用いて意思決定課題中のSCRの時間変化をモデル化し、観測データの近似回帰係数を被検者ごとに作成した。結果は、日常において不安状態が高い人ほど近似が高く、意思決定中に不安状態がより強く頻繁に喚起しており、意思決定時の早い不安状態変化を数量化できることが示された。 【実験経済学グループ】他者との関係性がその他者への資源配分にどのような影響を及ぼすかを、独裁者ゲームの実験により分析した。従来の独裁者ゲームでは、独裁者が配分する報酬は実験者から一律に与えられるのに対し、独裁者と受領者がコミュニケーションを取りながら実労働を通じて報酬を獲得し、獲得した報酬を配分する独裁者ゲームを実施した。実験結果から、コミュニケーションを取りつつ報酬を獲得した場合には均等配分率は増加するが、この影響は弱いことがわかった。一方、コミュニケーションの有無によらず、実労働への主観的な貢献度評価が均等配分率に影響していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験心理学グループは、当初予定していた研究成果の国際学会での発表までは実施できなかったものの、本研究で実施した実験1の研究の成果をFrontiers in Psychologyに掲載できたことや、実験2の研究成果を、日本心理学会や日本生理心理学会で発表できたことから、おおむね順調に進展しているといえる。 また、実験経済学グループは当初計画していた実験を実施し、分析結果を査読付き学会において発表できたことから、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
【心理学グループ】 意思決定課題中の不安状態変化の自律神経反応によりモデル化する方法に関する論文の執筆を進めている。今後は、経済学グループが試みている、コミュニケーションにより他者情報を入手することで、意思決定に伴う情報の曖昧性が解消され、不安状態様の意思決定を弱めるかを解明し、詐欺被害を受ける時に起こる特異な不安状態をいかに解消できるかを実験的に調べることが望まれる。 【実験経済学グループ】 令和元年に行動経済学会で発表した研究成果を、学術論文にまとめて発表する。さらに、人々が何を指標として実労働における貢献度を評価しているかを分析するための新たな実験を設計する。実験設計にあたっては、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から実験室実験の実施が難しい現状に鑑み、必要に応じてオンラインでの実験を目指し、実験デザインの変更、環境整備等を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
①実験心理学グループ:次年度使用が生じた理由は、実験データの解析に予定以上の時間を要したため、当初予定していた国際学会での発表申し込み期限に間に合わなかったからである。そのため残額は、令和2年度に開催予定であった国際心理学会(プラハ)での発表に関する学会参加費および旅費に充てる予定であった。しかし、新型コロナウイルスの流行に伴い、3月末に国際心理学会の開催が令和3年度に延期となることが決定したため、成果報告として英文雑誌への投稿にかかわる経費(英文校正費、学術誌掲載料)に充てたい。 ②実験経済学グループ:次年度使用が生じた理由は、1月に実施した実験の参加者が当初予定の1/3しか集まらず、また実験設備がより実験の仕様に合った他大学で実験を行ったため、追加実験を年度内に行うのが難しかったからである。そのため残額は、令和2年度に同じ実験を実施するための実験参加者謝金とする予定である。一方で、新型コロナウイルスの流行に伴い、現時点では令和2年度の実験室実験が実施可能か不明な状況にある。もし、今後も現在のような状況が続く場合は、オンライン実験での実施を目指す。
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