前年度までに、5から10歳までの子どもの行動が、拡張現実技術(augmented reality: AR)を用いて提示されたヒト型のキャラクター映像によって有意に影響を受けることを実験的に確認した。具体的には、タブレット端末を通してARキャラクターが立っている様子を観察できる通路と、そうしたキャラクターが出現しない通路の2つのうちのどちらか一方を通り抜けなければならないような状況において、5-10歳児は事前にタブレット端末を用いてARキャラクターの存在を観察した通路を(通路の選択時にはARキャラクターをリアルタイムに観察しているわけではないにも関わらず)有意に避けて通る傾向を生じた。 本年度は、こうした傾向が年少の子どもに特有のものか、それともより年長の集団(たとえば大学生)においても認められるかを大学生を対象とした追加実験によって検証した。5-10歳児を対象とした実験と同様のARキャラクター、実験設備を用いつつ、キャラクターの出現状況に関わるカバーストーリーを大学生向けに改めて実験を実施した。その結果、大学生ではARキャラクターの出現した通路、あるいは出現しなかった通路を選択する割合には、統計的に有意な偏りは認められなかった。 本年度に実施した成人実験の結果と、前年度の子どもを対象とした実験の結果を総合的に解釈するならば、成人の行動には影響しないAR表現であっても、子どもの行動には影響を生じる場合もあることが示されたといえよう。
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