研究実績の概要 |
今年度は、リズム音等の音刺激が自発的身体運動に与える影響、覚醒度、および選好に与える影響について実験的に検討した。まず実験室において、特定の教示を与えず安静下の状態にあるチンパンジーを対象に、低音(C1, C2 およびC3)で作成したリズム音(エイトビート)を2分~3分再生し、その間に誘発される身体運動をビデオで記録し後に分析を行なった。その結果、全身の揺らし運動(swaying)、首ふり(head-bobbing)、手を叩くなど、ヒトがリズム音を聴いた際にみられるものと類似した反応がみられた。また、オスの方がメスより音刺激を聞いた際に観察されたリズム運動の生成時間が長く、また発声も多くみられたことから、音刺激に対する反応には、雌雄差があることも確認された。次に、特に反応が顕著だったオス一頭を対象に、リズム音の速さを操作して提示し、その間の身体リズム反応の周期性をビデオ画像から分析した。直立2足姿勢では、垂直方向の動きが顕著に見られる一方で、四足姿勢では水平方向の動きが顕著に見られたため、それぞれ別に分析を行なった結果、直立2足姿勢では、リズム音の速さと動きの周期性に正の相関が見られた。さらに、リズム音の知覚に対する選好を調べるために、音源からの空間的近接性について、音刺激再生時と非再生時で比較した所、音刺激再生時に有意に音源付近へ滞在することもわかった。本研究は、ヒトの音楽の基盤である(1) 聴覚刺激による身体運動の誘発、(2) リズム速度が運動へ与える影響、(3)リズム運動を誘発する聴覚刺激への選好が、チンパンジーにも共有されていることを示すものであり、その成果は、米国科学アカデミー紀要誌 (Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America) に掲載された。
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