研究課題
本研究は,音声を断続させ,欠落した部分を雑音で埋めると,雑音を入れずに欠けたままにした場合に比べて明瞭度が向上する効果について調べ,脳がどのようにして欠けた情報を埋め合わせているのかについて調べることを目的としている。具体的には,意味のある文を発話した音声を用いて,これを 220 ms 以下の区間長で,周期的に断続する。区間長が短ければ 100% 近い明瞭度が得られること,空白部分を音声よりも充分に強い雑音で埋めると明瞭度が有意に向上することがすでにわかっている。本研究では,次の三点において,従来の研究では知られていなかった事柄を明らかにした。第一に,単なる断続音声ではなく,断続後の音声区間の時間軸を逆転させた「局部時間反転断続音声」を用いたところ,雑音なしの条件で,断続音声の場合では区間長が 200 ms を越えても 70% 以上の明瞭度が得られるのに対して,局部時間反転断続音声の場合は区間長が 20 ms を越えただけで急激に明瞭度の低下が起こり,区間長 80 ms の条件で明瞭度が 10% 以下にまで低下した。第二に,空白部分を音声よりも充分に強い雑音で置き換えたところ,断続音声,局部時間反転断続音声の両者で最大 20% 程度の有意な明瞭度の向上が見られた。第三に,雑音の強さを音声の強さの実効値と等しくなるまで低下させたところ,断続音声では明瞭度の向上が見られなくなったのに対して,局部時間反転断続音声では依然として最大 20% 程度の明瞭度向上が見られた。このような現象が生じる理由は,聴覚末梢系におけるマスキングの効果だけでは説明がつかず,脳が音声の意味を限られた情報から組み立てる能力と深く関係していると考えざるを得ない。その他,局部時間反転音声の明瞭度についての多言語比較の研究成果を,Nature の姉妹誌である Scientific Reports に出版できた。
1: 当初の計画以上に進展している
従来の研究では知られていなかった事実を明らかにすることができ,さらに調べるべき点が明らかになったので,今後の研究方針を定めることができた。また,局部時間反転音声の明瞭度についての多言語比較の研究成果を,Nature の姉妹誌である Scientific Reports に出版できた。
当初計画していた音声刺激 5 種類のうち,2 種類のみを用いて従来にはない知見を得ることができたため,今後,この知見をより確かなものとして論文の出版につなげられるような実験を実施するとともに,未使用の刺激についても予備実験を実施する。
次年度に,当初予定されていなかったサバティカルを取得することになり,今年度使用する予定であった外国旅費を,次年度に回した方が有効に活用できると考えたため,今年度に入ってから,計画的に次年度使用額を生じさせた。したがって,次年度使用額は,サバティカル期間中に外国旅費として使用する予定である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 8件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (4件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
Frontiers in Human Neuroscience
巻: 12(149) ページ: -
10.3389/fnhum.2018.00149
Scientific Reports
巻: 7 ページ: -
10.1038/s41598-017-01831-z
10.1038/s41598-017-17058-x
Journal of Speech, Language and Hearing Research
巻: 60 ページ: 465-470
http://www.design.kyushu-u.ac.jp/~ueda/index.html
http://www.design.kyushu-u.ac.jp/~ueda/uedalab_home_j.html
http://hyoka.ofc.kyushu-u.ac.jp/search/details/K002356/english.html#Academic_Activities
http://hyoka.ofc.kyushu-u.ac.jp/search/details/K002356/index.html