研究実績の概要 |
音声を周期的に断続した断続音声では,もとの50%の情報しか呈示されない。しかし,断続周期の条件により,また削除された部分を雑音で埋めることにより,80%程度以上の情報が復元される。これは,あたかも視覚における盲点のように,欠落した入力情報を,周りの情報や知識をもとに脳が推測し,埋め合わせているように見えるかも知れない。しかし,聴覚の場合,入力情報は常に時間的な変化の情報として継時的にしか入力されないため,視覚の盲点と同じには扱えない。一方で,どのような情報を脳が利用して音声修復を行っているのかについてはよくわかっていなかった。本研究は,脳が行う音声修復の仕組みについて探るため,劣化操作を加えた音声を断続し,また削除された部分を雑音で埋めることで,どのような復元が行われるのかを調べた。 音声を 20-160 ミリ秒ごとに区切った後,それぞれの区間を時間反転させた局部時間反転音声を用いて,これを一つの区間おきに削除した刺激,削除した区間に雑音を入れた刺激,および断続音声刺激を作り,雑音の強さを-10, 0, 10 dBと変化させ,音声の聴き取りの変化を調べた。局部時間反転音声を断続させると明瞭度が60%以上,低下すること,雑音のレベルが高いときのみ無音区間を雑音で置換すれば明瞭度が最大40%程度,上昇することがわかり,本年度はこの国際共同研究の結果を,ブリティッシュ・コロンビア大学の Valter Ciocca と共に論文を執筆,投稿した。しかし,論文の新規性が査読者に理解されず,採録されなかったため,原稿を改訂し再投稿の準備中である。また,視覚呈示された数字の系列再生課題に無関連な音声がおよぼす妨害効果に関する国際共同研究の成果が,米国音響学会誌に掲載された。さらに聴覚アイコンと聴取者の言語背景との関係についても研究を行い,研究成果が国際査読誌に掲載された。
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