本研究では、自閉スペクトラム症者(以下、ASD)における作り笑いの理解について検討することを目的とした。研究協力者は、ASD者10名と定型発達者(以下、TD)16名の計26名であった。作り笑いとは何かとという定義に回答し、社会的スキル尺度項目(kiss18)を評定した。また、自然な笑い26枚、作り笑い26枚の合計56名の表情画像について、作り笑いか否かの判断をもとめ、これらの画像を見る際の視線分析をおこなった。その結果、作り笑いについてASD群・TD群共にその定義は共通し、「可笑しみを伴う自然な感情ではなく表面的・意図的な笑顔による笑い」と定義していた。作り笑いの判別は、TD者の方がASD者よりも正確であり、社会的スキル尺度との正の相関がみられた。ASD群のなかで、作り笑い判別率の高得点者と低得点とのあいだの視線の違いがみられた。これらの結果から、①ASDは、対人的相互作用における質的な障害を示すことから(APA:2013)、「作り笑い」現象を直感的に理解するのか(直感的心理化)、 言語的類推によって命題的に理解するのか(命題的心理化)、②他者の存在の有無によらず快感情が生じたときに起きる「感情の笑い」と、他者意図操作・印象操作・雰囲気操作のための「意思の笑い」のうち(浅田;2002)、後者の「意思の笑い」である「作り笑い」には社会的メタコミュニケーションの発達が深く関与している。未発達な社会的メタコミュニケーションは、日常の社会的文脈ではどのような不適応状態をひきおこすのか、の点から考察を行った。
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