研究課題/領域番号 |
17K18712
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
幸田 正典 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (70192052)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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キーワード | 顔認識 / 顔の倒立効果 / 真の個体識別 / 顔神経 / 硬骨魚類 / 相当と相似 / 系統関係 |
研究実績の概要 |
共同繁殖魚プルチャーは、個体変異のある顔の模様でお互いに個体識別をしている。本課題研究では本種を対象に顔認識について、さらにいくつかの研究を進めることができた。 まず、本種が複数の個体を個別に識別することができるのかどうかを検証し、「True Individual Recognition (TIR)」ができることが実証できた。TIRはヒトの他多くの霊長類や社会性ほ乳類で確認されている能力で、複雑な社会関係を維持して行く上で不可欠な能力といえる。しかしこれまで魚類での報告はなかった。我々は縄張りの「紳士協定」と呼ばれる現象を利用し、これを解明した。紳士協定はほとんどの動物で知られており、本成果はほとんどの動物でもTIRができることを示唆しているし、実際にそうだと我々は考えている。 また、プルチャーの顔認知で「顔の倒立効果」が起こることがほぼ検証できた。顔の倒立効果はヒトで最初に発見され、その後霊長類現在では多くの社会性ほ乳類でも確認されている。これは、顔の認知に特化した顔神経の存在を意味しており、今回の発見は、魚類でも顔神経が存在することが示唆された。ほ乳類では顔認神経の存在が確認されており、今回の発見は魚類での顔神経の研究を促すものと言える。 また同時に、顔の個体特異的な模様でTIRをしているなら、まず相手個体の顔を見るだろうとの仮説を考えそれを検証した。相手個体の顔や特に目を見ることは、ヒトや霊長類で確認されている。我々は独自に計測装置を考案し、それを用いて実験を行った。その結果、本種もまず同種他種個体の顔を見ることが検証できた。 このような魚類の顔認知が一般的かどうかも検討課題である。これまでスズキ目魚類を対象に顔認識を検証してきたが、今回は、コイ目のゼブラフィッシュ、ダツ目のメダカ、カラシン目のグッピーを対象に顔認識に基づく個体認識が、ほぼ明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々が2015年に公表した顔認識ができるプルチャーを対象に、1)本種が顔の色彩模様を信号として「真の個体識別」をしていることを明らかにしたこと、2)本種を対象に魚類で初めて顔の倒立効果を実験的に実証できたこと、3)魚類が相手個体の顔を見ることを世界で初めて実証できたこと、4)スズキ目以外の、カラシン目、ダツ目、コイ目、さらにはおそらくサケ目でも社会性が発達した魚類であれば、顔に個体変異のある色彩模様があり、それを信号に個体識別をしていることが明らかにできた。これら4つの成果いずれも成功させることができたことは、いずれも世界でも初めての成果であり、これは予想以上の成果ということができる。 特に、顔の倒立効果は、魚類における顔神経の存在を示唆しており、ほ乳類のそれとの進化的関係の検討にも発展しうる。すなわち、顔神経が相似的形質なのか相同的形質なのかという問題である。我々は、脊椎動物の体の構造の相似性と相同性のあり方から、顔神経にも魚類とほ乳類とで相同的な側面があるとの仮説を今回新たに提唱している。この仮説は脳神経科学や、動物心理学などの行動の神経基盤の解明に果たす役割は大きく、発展の意義は計り知れないと考えている。 また、硬骨魚類の顔認知が、幅広い分類群で確認できつつあることの意義も大きい。つまり、硬骨魚類のかなり祖先の段階で顔認知が進化していた可能性を示唆するからである。これは魚類の顔神経の進化における系統的古さの検討にも繋がって行く。 さらに発展した仮説の検討も行っている。魚が相手個体の目を見ることで、相手がどこを見てるのかを認識できている可能性がある。これはヒトでの視線追従と同じことが起こっていることになる。魚の目も実は外側からみれば、視線の方向性は我々でもわかる。ほぼ同じことが魚類どうしても行っている可能性があると我々は考えはじめている。
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今後の研究の推進方策 |
さらに魚類での顔認識や視線の追従を明らかにしていくために、研究を発展継続させる。 はじめの課題は、相手個体の顔をはじめに見ることがわかったが、それは目かどうかを確認したい。ヒトや霊長類の場合顔の中でも目が最も重要な確認対象である。我々はプルチャーなど社会性魚類の場合も、目は特別な存在であると考えはじめている。予備的に顔を拡大し提示した実験では、モデルの目が正面を向いている場合プルチャーは目そのものを避け、目の周辺に注目していることが明らかになった。今後は、モデルの目が明らかに前方を向いている場合、対象個体はどう見るのかという実験を行う。我々はモデルの目を頻繁に見ると予想している。さらに、その視線の方向をも見ることも予想している。そうなると、ヒトの目の効果と極めて似たことが魚類でも起こっていることになる。 さらに次の仮説は、ヒトの場合白目の存在が視線の方向性を際立たせているが、魚の目では、虹彩の周辺の黄金環(golden ring)が同じ役割を果たしている可能性があるというものである。すなわち、視線の方向のわかりやすい社会性魚類では、確かに黄金環がめだっている(多くの珊瑚礁魚類、サケ科魚類など)。黄金環を強調したり、弱めたりし、魚類の視線追従を検討したい。(ちなみに、社会性の低い軟骨魚類の視線は我々にもわかりにくく、サメやエイの目には黄金環は認められない)いずれにせよ、目の果たしている役割は、魚類の段階ですでに大きく、魚の個体識別信号や精神的状態を示す諸信号も顔に集中しているのは、目の果たす役割がヒトと同じように大きいために、目の周辺にこれら信号が集まっているとのストーリー(仮説)の展開に繋げて行きたい。 以上の研究成果は、脊椎動物の中で視覚の発達したヒトに見られた社会的認知現象が、魚類の段階で現れることを示すことになり、脊椎動物の認知を理解するで大きな観点になると思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の配分金額280万円のうち約50万円を翌年度に繰り越すことになった。これは海外旅費と謝金の使用金額が少なかったことによる。初年度は国際学会で使用することがなかったが、二年目には国際学会に複数名で参加の予定であり、繰越金額はこれに当てる予定である。
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