昨年度の研究で、ラットが他個体に自らの行動の成果に"ただ乗り"されることを避けることが示唆された(フリーライダー忌避)。本年度は社会的な優位性が、フリーライダー忌避の程度に影響するかどうかを明らかにする実験を行った。報酬の不公平な分配を忌避する「不公平忌避」の研究では、優位な個体の方が不公平忌避の程度が強いことが示されているからである。ラットをペアで飼育し、摂水制限後に一本の水ボトルから摂水する時間の長い方のラットを優位ラットとした。実験には、1つのレバーと2つの餌皿、およびそれぞれの餌皿の上部にランプが設置されたオペラント箱を用いた。ひとつのオペラント箱には、自らレバーを押すことのできるラットをA、できないラットをBとして、ペアで飼育したラットを入れた。ただしラットBは筒の中に入れ、どちらか一方の餌皿の前に置いた。割り当ては隔日で交替した。左右いずれかにランプが点灯してから8秒経過後のラットAのレバー押し反応を強化した。餌はランプが点灯している側の餌皿に供給された。従属変数はランプ点灯中のラットAのレバー押し回数であった。筒側のランプが点灯している試行は消去試行であるので、レバー押し数はいずれの群でも低下すると予想した。加えて、ラットBが餌を摂取してしまうので、このただ乗り状況を避けるため、劣位ラットに比べて優位ラットのレバー押し回数がより速く減少すると予想した。しかし、レバー押し回数はいずれの群でも減少傾向を見せず、また群間で異ならなかった。このことは、そもそもフリーライダー忌避が生じなかったことを示唆しており、社会的な優位性がフリーライダー忌避の程度に影響するかどうかを検討するまでには至らなかった。
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