先行研究により、自発的な瞬きが主体の情報処理や注意のリセットといった内的な認知活動を反映することが報告されている。本課題では、認知課題遂行中の自発的瞬きを主体内部の注意や情報処理を測る行動指標として用いることを目的とし、瞬き生起と認知課題成績との関係について調べた。 認知課題には再認記憶課題を用いた。通常の記憶課題とは異なり、まず事前にモデルとなる複数人の動画視聴中の瞬きを計測し、瞬き生起が集中する場面を選定した。その後、選定した場面から再認記憶刺激として静止画像を作成した。また、記憶刺激には別動画から作成したディストラクターも含めた。続く記憶実験では、モデルが視聴したものと同一の動画を別の参加者が視聴し、その後、先述の記憶刺激を用いて再認課題を行った。このような方法で、瞬き生起と再認記憶成績の関係を調べた。瞬きが注意のリセット(認知負荷のリリース)と関係するならば、瞬き直前の記憶には新近効果が、瞬き直後の記憶には初頭効果が見られ、瞬き生起のなかった場面よりも再認成績が良いと考えられる。 実験の結果、再認記憶成績については、瞬き直前・瞬き直後の再認刺激およびディストラクター刺激では正答率が90%を超えていたが、瞬き生起と関連しない再認刺激ではそれを下回った。また、モデルと参加者の瞬きパタンの類似性を調べるため、符号化段階において後の再認刺激となる場面視聴時の両者の瞬きパタンの一致率を分析した。その結果、参加者全体とモデルの一致率は有意ではなかった。これは瞬きパタンの個人差が大きいためと思われる。そこで、参加者個人ごとにモデルとの一致率を調べたところ、符号化段階でモデルとの瞬きパタンの一致率が高かった刺激は、その後の再認課題での正答率が高かった。このことから自発的瞬きと記憶成績との関連性が考えられるが、モデル精度や実験参加者数の改善とともにさらに検討が必要と考える。
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