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2020 年度 実施状況報告書

社会的状況における学習戦略の統計モデリング:認知の可塑性の外縁を探る

研究課題

研究課題/領域番号 17K18718
研究機関統計数理研究所

研究代表者

川森 愛  統計数理研究所, リスク解析戦略研究センター, 外来研究員 (50648467)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2022-03-31
キーワードニワトリ雛 / 最適採餌理論 / 状態空間モデル / 認知計算モデル
研究実績の概要

今年度の研究としては,これまでのモデルの改良,および派生モデルの体系的整理を行い,対象動物の行動をより深く理解することが可能となった.
本研究で作成したモデルは,参照値と実測値の二つの差に基づいて確率的に行動を決定するという枠組みで,動物がその頭の中でどのような認知変数を使用しているか検証できるようにした点にオリジナリティがある.例えば,古典的最適採餌理論に基づいて最適行動時刻を算出できるのであれば,それを参照値として実測した現在時刻との差に基づいて行動を決定すれば良い.しかしこのようなモデルはヒヨコの行動の,特に実験条件に依存した分散傾向を説明するのに適していなかった.一方,長期平均利益率を実測値とし,その経験最大値を参照値とするモデルにすることで,行動の分散傾向を説明できるようになった.ただし,AICを用いたモデル評価としては,個体によって必ずしも最良ではなかった.
この問題に対するモデルの改良として,移動と滞在の2種類の時間の価値が異なるとする時間不等価モデル,参照値と実測値の差をそのまま使うのではなく指数変換するモデル,という2つの改良を検証した.これらのモデルは推定パラメータがやや現実的でない問題はあるものの, AICとして改善が見られた.
一方,実測値として瞬間利益率を用いた時,AICによるモデルの当てはまりには更なる改善がみられた. F統計量を使った指標を使用してデータの分散傾向と一致しているかを評価したところ,瞬間利益率モデルは最適採餌モデルに比べて相対的に優良モデルであることが示された.このことから,動物は最適時刻を計算するよりは瞬間利益率かそれに似た認知変数を用いている可能性が高く,動物の認知メカニズムの解明に近づいたと言える.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

昨年時点での見立てが不十分であった.昨年の計画では,作成したモデルを使用して学習効果や社会的競合への影響を調べることとしたが,今年度はモデルに改良の余地があることを発見し,その開発と整理に充てた.結果として新しいモデルのデータへの当てはまりは大幅に上昇し,古典的な最適採餌モデルよりも良いモデルが出来上がった.この新たなモデルを使用することで,今後の検証もより質の良いものになると期待されることから,必要な作業であった.今後は昨年度の計画を実行する.

今後の研究の推進方策

1.新たなモデルを拡張し,学習プロセスを含めたモデルを構築する.学習モデルとして,単純であるが習慣依存性が現れるロス・エレブ型モデルと,認知的負担は増加するが精確な学習が可能なレスコラ・ワグナー型モデルを比較し,ヒヨコがどちらに近い学習を行うか検証する.可能性の一つとして,実験条件群による学習戦術の違いが現れ得る.初期に簡単なタスクを課された条件群(多少の労力で餌を得られるため,即座に学習が起こる)と,初期に困難なタスクを課された条件群(多大な労力を払わなければ餌にありつけないため,そもそも学習の機会が得られにくい)の間で,学習戦術が異なる可能性がある.実験スキームの異なる過去の研究データ(Kawamori & Matsushima 2010)を用いた検証では,初期の実験の困難さが学習戦術の違いに結びつく傾向が見られた.ヒヨコが種として持つ学習戦術を検証するため,実験スキームが異なるこれらの二つの研究データを交えて,学習戦術の個体分布を調べる.

2.今年度の結果を踏まえて,新たなモデルを用いた個体が社会的競争採餌条件におかれた時にどうなるかを検証する.特に,ヒヨコが最適採餌理論とは異なる認知モデルを使用しているとなれば,採餌効率がどの程度低下するかを明らかにする必要がある.また,互いに競争する採餌状況において効率がどのように変化するか検証し,競合に有利な認知モデルが存在するかどうかも調べる.さらに,生産者/略奪者という社会戦術を導入した時,それらの社会戦術と認知モデルの関係を調べる.

次年度使用額が生じた理由

COVID-19の影響により,研究計画全体に大幅な変更が生じている.移動が大きく制約されていることから,渡航して実験する長期計画がなくなっただけでなく,研究打ち合わせのような短期計画も実行できない.当初計画になかった出費を無理矢理作り出すのも無意味である.研究終了時に残額が生じた場合は返還する予定である.

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] Construction of Roman roads toward Neuroeconomics2021

    • 著者名/発表者名
      Toshiya Matsushima, Ai Kawamori and Yukiko Ogura
    • 雑誌名

      Behavioral and Brain Sciences

      巻: - ページ: -

    • DOI

      10.1017/S0140525X21000303

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] 最適採餌理論と行動の乖離:認知プロセス解明のための確率的意思決定モデル2021

    • 著者名/発表者名
      川森愛,小倉有紀子,藤川雄基,松島俊也
    • 学会等名
      日本生態学会
  • [学会発表] ヒヨコの餌パッチ利用行動の確率的意思決定モデル2020

    • 著者名/発表者名
      松島俊也,小倉有紀子,藤川雄基,川森愛
    • 学会等名
      日本動物行動学会

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公開日: 2021-12-27  

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