本研究の目的は動物がどのような学習方策を持つか調べることであることであった.ヒヨコを用いた採餌行動実験から統計モデルを作成し,個体ごとのパラメタライズの違いから学習方策の違いを推測した.また,内部価値更新モデルには個体差があったことからも,個体によって行動戦略に違いがあることが示唆された. また,同じ行動実験を複数個体で同時に採餌する,社会的競争の文脈に変更した時,個体の行動戦略がどのように変わるかを調べた.行動においては採餌場への滞在時間平均値の個体間分散が顕著に小さくなることを発見した.もしも複数個体の間でリーダーとフォロワーの役割が固定化されていれば,滞在時間分布は誰かの分布に一致するので,単独個体での実験と異なることはない.そうではなく,ヒヨコは随時リーダーとフォロワーの役割を交代するために,滞在時間が複数個体間の混合分布として与えられるために分散が小さくなったと考えられる.このことは,前のモデルから推定されたパラメータを用いて架空の競争条件でシミュレーションし,リーダー/フォロワーの役割交代の頻度を変えることにより分散が小さくなることによって確かめた.このことから,ヒヨコは常にリーダーとフォロワーの役割を変えながら採餌していると言える.これらは群集採餌の文脈ではそれぞれ生産者と略奪者にあたる.これは野外での観察やゲーム理論の知見とも一致しており,最適性を高める行動であると考えられる.
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