本研究では、既存の遺伝子改変マウスに対して多角的行動表現型スクリーニングシステムを用いて行動表現型の解析を行い、実際の病態に即した多面的な病態を示す疾患モデルマウスの開発を行うとともに、発達障害モデルに特有の生理学的・生化学的マーカーの探索を試みることを目的とした。行動スクリーニングの結果、Shank2 KO変異体(Shank2)、Nlgn3 KO変異体(Nlgn3)といった既存の発達障害モデル動物では高活動と社会性の低下が確認された。また、Ikzf5 KO変異体(Ikzf5)、およびTgm3KO変異体では多動を伴わずに社会行動の異常を示すことが見いだされた。既知の発達障害モデル動物とは異なる表現型プロフィールを示すことから、新たなタイプの発達障害モデル動物候補として有望であると考えられる。 活動量と血中脂質代謝物との解析を行った結果、Shank2、Nlgn3のいずれにおいてもTGが活動量と負の相関を示していた。今後はほかのモデル候補動物についても行動指標と血中脂質代謝との関係についての解析を行い、複数の系統に共通するような行動的、生化学的データを見出して生物学的マーカーとしての検討を行っていく必要がある。 テレメトリーシステムを用いた解析では、活動量、社会行動と深部体温との関係についての解析を行った。おおむね活動量が高いときに体温が高くなる傾向がみられ、Shank2やNlgn3などの既存の発達障害モデル動物ではその傾向が強くみられた。それに対し、Ikzf5では活動量の増加を伴わない体温の上昇がみられた。発達障害患者では自律神経の調節機能が弱く体温リズムに異常がみられるという報告があることから、新たな発達障害モデル動物の有力な候補として、さらに詳細な検討をおこなっていく必要があると考えられる。
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